「これら調査班が一様に驚くことは、地元民やこの事件の関係者などが放射能の脅威に無関心すぎるということで、調査班は皆、消毒用ゴム手袋、マスクなどで身を固めて船内の放射能調査などを行っているのに、地元民や報道関係者はマスクを持っている者すらない。西脇大阪市医大助教授は、これら船内の甲板を一巡した地元の人の靴を脱がせ、その場で放射能探知機により測定したところ、この靴の裏には相当多量の放射能塵が付着していることが明らかとなった」。現場の雰囲気がよく分かる。
同日、アリソン駐日大使は外務省を訪ね「アメリカ政府は今度の不幸な事件に非常な関心を持っており、被害者の治療、放射能の消毒などについてはできるだけのことをしたい」と述べたことが3月18日付朝刊各紙に載った。
同じ日の紙面には、焼津で乗組員の診察や第五福竜丸の船体検査などを続けていた東大などの総合調査団が
1)乗組員らは生命に危険はなく2カ月ぐらいで回復する
2)船体を焼いたり沈めたりする必要はない
3)魚はサメは危ないがマグロは食べてもよい
との結論を出したことも載っている。
ついにあきらかにされた水爆の事実 「想像を絶した爆発力 測定不能」
3月18日付夕刊各紙には、アメリカ議会原子力委員らを情報源としたビキニ実験の規模などについての記事が掲載された。朝日は「想像を絶した爆発力 測定不能 米科学も驚倒」、読売は、「測定装置役立たず 強力無比の水爆」の見出しだったが、「史上最大・ビキニ『水爆』 広島原爆の六百倍」が見出しの毎日を見よう。
【ワシントン17日発(マイラー記者)UP特約】米原子力専門家が述べたところによれば、マーシャル群島で放射能の障害を受けた日本人漁夫(第五福竜丸の23名)は“ベータ―線による火傷”を受けたものだとされる。3月1日、ビキニ環礁で行われた巨大な熱原子核爆発(注=水爆は原爆の発生する高熱を利用して水素原子核をヘリウムに転換させ、その際に発生するエネルギーを爆弾としたもので、一般に熱原子核爆発といえば水爆を指している)から生じた放射性の塵埃(じんあい)が原子雲の中に混じり、これが日本人漁夫の乗っていた漁船に降りかかったというのが今回の事件なのである。
3月1日の爆発は、これまで行われた原子爆発のうち、最も大きなものであったことは明らかで、少なくとも広島に投下された原爆の600倍の威力を持っていた。この爆発は地上か、または鉄塔の上で行われ、実験を行った島を吹き飛ばし、粉砕されたサンゴ礁と、放射能を帯びた水100万トンを20マイル以上の上空へ舞い上がらせたのである。
アメリカは軍事機密として公式には明らかにしていなかったが、ビキニの実験が水爆だったことがアメリカ側の見解として明らかになった。
各機関の調査団が現地へ 交錯する評価
現地焼津には東大のほか、京大など各機関の調査団が入ったほか、広島のABCC(原爆傷害調査委員会=現放射線影響研究所=)のモートン所長らも加わることになり、3月19日付読売朝刊は「日米死の灰調査合戦」の見出しで報じた。