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そして、叡王へ……【流れゆく水のように 豊島将之竜王・叡王インタビュー 第3章】

source : 提携メディア

genre : ライフ, 娯楽

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「本当に、タイトル獲る前は将棋しかやってなかったので。そんなに……まあ、いい生き方というものがあるのかはわからないですけど、少なくとも自分の生き方は、いい生き方ではなかったですけど……『これしかないかな。しょうがないかな』という気持ちでやっていたというか」

「や、なんか色んなことを幅広くやって、それで……リスクを分散するというか、そういうほうが、何て言うか、うーん……正しい、ということはないんでしょうけど、『そのほうがいいんだろうな』とは、思っていましたけど」

「でも自分は、どうしてもそれはできないなと思って、ただ将棋をやっていただけなので……」

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──今後も、そういう『リスクを分散する』ような生き方は、しないというか……できないというか、しづらいというか……。

「いやぁ? 自分の中では『タイトルを1回獲りたい』というのがすごく大きかったので。それができるか、絶対にダメだとわかるまでは、他のことは難しいなぁと。思ってたんです…………けど」

──けど?

「今は、せっかく今まで将棋をやってきて、一番いい場所で指せるようになっているので。それで他のことに手を出すのは……公認会計士の試験を受けたりとかは。ふふふ」

──さすがにそこは(笑)

「将棋以外のこと、やってみたい気持ちはありますけど。でも、まあ……そうですね。将棋、このまま続けて、少しでもいい結果が出るように続けていくのが、自然かな……という感じですけど」

──タイトルの数を増やすことが目標になるんでしょうか?

タイトルを獲りたいというか……タイトル戦に出続けたい、という気持ちですね。タイトル戦に出て将棋を指していると、やっぱり充実感もありますし。あとは、自分が納得できる将棋を一局でも多く指したいということです」

「ひどい将棋を指してしまうと『ああー……! ダメだなぁ……』って感じるので(笑)」

 現代将棋の礎を築いたのは、羽生世代だとされる。
 将棋の真理を追い求め、道無き道に定跡という名の舗装を施した。共同研究という、強くなるための効率的な方法すら提示した。それは将棋の歴史上、希有な天才たちが膨大な時間と労力を費やした試行錯誤の末の成果物だった。
 だから羽生の次の世代は、羽生たちが舗装した高速道路の上を走ってどんどん強くなる……はずだった。
 しかし現実は、非効率な試行錯誤を続けた羽生世代が、長く将棋界のトップに立ち続ける。
 豊島自身も羽生という高い壁に跳ね返され、心折れた瞬間もあった。