「持将棋になった3局目とか、4局目もそうですけど、1時間の将棋。もっと持ち時間が長ければ負けていたと思いますし、4局目はこっちが優勢になっていたら勝っていたと思いますし」
──1時間のタイトル戦なんてないですもんね。しかも1日に2局指すなんて。
「そうですね。1時間はキーになるかな、と思っていて。3局目で負けても、4局目を指すことになる。そういうことってあんまりないですから。1日2局というのはありますけど、勝ったら2局目もというのが多い」
──あのスタイルでのタイトル戦というのは、残念ながらなくなってしまったのですが……得られたものはありましたか?
「持ち時間が変化していくというのは初めての経験で、勉強になったというか。あと永瀬さんも持ち時間によって作戦を変えてくるというのがありました。作戦の幅が広くて、振り飛車もあるし、横歩取りもあるって感じで。そういうところは手強いというか、見習いたいという」
──なるほど。永瀬先生の手強さが出やすい戦場だったと。
「第4局とかは、すごく粘られて負けてしまいましたし。持将棋になって、次の対局であそこまで頑張れる人というのは、そんなにいないと思いました(笑)」
──終わって、タイトルを獲得なさったときは、どう思いました?『やっと終わったー!』みたいな?
「名人戦で負けて、タイトルが一つになってしまっていたので、獲得できてホッとした……という感じですね」
『いつかは、叡王戦のタイトル戦に出たい』
そう思っていた叡王を激戦の末に獲得し、やはり感慨深いものがあったのだろう。
これまでは私が一つ問えば一つ答えが返ってくるという感じだった豊島の口から、自然と言葉が溢れてきた。
ドワンゴと電王戦への、感謝の言葉が。
「偶然の連続というか……そういうので今の自分があるな、と思います」
「うん……電王戦が始まって、それに自分が出て……うん。もし電王戦に出ていなかったら、ソフトを扱うようになるのも、もっと遅れていたと思うんです。そうすると多分、序盤のところでそんなに差を付けることができていないと思うので、タイトル戦にもこんなにたくさんは出られていなかったんじゃないかなと」