文春オンライン

そして、叡王へ……【流れゆく水のように 豊島将之竜王・叡王インタビュー 第3章】

source : 提携メディア

genre : ライフ, 娯楽

note

 けれどそんな心地よい空間に、豊島は背を向ける。

「研究会もVSも、最後のほうは惰性で続けているような感じになっていました」

 電王戦が豊島を変えた。
 タイトルを獲れないまま棋士室で日常を消費することが、苦しくなっていった。
 豊島の短い青春は終わり、孤独な戦いが始まる。
 それは勝負師として当然の選択だったかもしれないが、難しい選択だったに違いない。

ADVERTISEMENT

「ソフトは家で、好きなように検討できるので楽です。でも、みんなで集まって検討すると、誰かが意見を言ってくれる」

 

 最後に、5階の対局室……にも行きたかったのだが、この日は公式戦が行われておりそれは不可能だった。
 ただ、インタビュー用に押さえてもらっていた4階の和室でも対局は行われる。
 そこでの記憶を尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「ああ、ここも思い出があります。奨励会はこの部屋でしたから。最初は……あの隅っこに座っていました」

 9歳で奨励会に入った豊島。
 当時と同じ場所に座ってもらった。棋士としてのスタートラインに。
 竜王になった今でも、その姿は意外としっくりくる。9歳のときの姿が思い浮かぶ。

「壁にもたれてたら、先輩に怒られました(笑)」

 

 関西将棋会館で対局中継が行われる場合は、この部屋が主に使われる。
 叡王戦の予選や本戦はここが戦場となった。
 話を聞くにはふさわしいだろう。

 いよいよ、ドワンゴが企画した最後の、そして最大のイベントについて尋ねる時が来た。
 電王戦からタイトル戦に昇格した、叡王戦について。
 最初は、まさにこの場所で行われた、あの対局について質問した。

豊島将之と叡王戦

──まずはタイトル戦に昇格した最初の叡王戦である、第3期叡王戦のことについて教えてください。

「はい」

──その期で叡王を獲得した高見先生が、本戦で豊島先生に勝って泣いたというエピソードがあります。その対局では豊島先生も、ミスが出たときにご自身の腿を叩かれたり……タイトル戦になった初の叡王戦にかける想いというのは、やはり強いものがあったのですか?