――言われるのはどなたから? 棋士ではなくて?
八代 棋士はそういうことは言わないです。言うのは、記者の方や地元の方、それに親兄弟ですね。弟は将棋に詳しいわけではないのですが、僕の成績はチェックしていて「勝率は悪くないのに、順位戦は昇級できないね」と言っていて。
――確かに勝率は昨年度0.739と全棋士中4位と高いですし、非公式のレーティングも全棋士中20位です(※取材した2021年5月末時点)。
八代 レーティングは20位なんですか? 弟に言われるまでもなく、まずC2を抜けないといけないと思っています。
全棋士参加棋戦での優勝「八代ショック」
――4年前に朝日杯将棋オープン戦で優勝されています。「八代ショック」という言葉を聞いたことがありますが、同世代の反応はいかがでしたか。
八代 優勝してしばらくは、誰かと会うたびに「おめでとう」と言われていました。しかし、1週間経たないくらいで三枚堂君と会ったとき、顔を見るなり「いやあ」って。「おめでとう」は出てこない感じというのか。高見君からはLINEも何も来ませんでした。でも、それで気を悪くしたりしません。変わっていたのが勇気君で、優勝当日、朝日杯の打ち上げにやって来たんです。嬉しいですが、同世代で来たのは彼だけ。僕が逆の立場なら、祝う気になれないし行きません。「なんで勇気は来たのかな。俺のことライバルとも何とも思ってないのかな。こういうところは、やっぱり天才かも」と思いましたよ。
――全棋士参加棋戦での優勝ということで自信になったのでしょうか。
八代 それはすごく自信になりました。棋士5年目で、ほどほどに勝ってはいるけれど、目立った結果は出ないという時期でしたから、嬉しかった。自分も優勝できる器なんだ、頑張りさえすれば大きな結果を出せるんだと思えました。今でも、負けて自信を失ったとき、朝日杯のことを思い出して自分を奮い立たせています。
――逆に高見七段が叡王を獲得したときは、八代先生にショックはあったのでしょうか。
八代 悔しさで平静ではいられませんでした。一応、おめでとうのLINEは送り、それから1人で行きつけのバーに飲みに行きました。誰かと飲むと八つ当たりしてしまいそうだし、「高見がタイトルを獲って悔しい」なんて愚痴るわけにもいかない。お前も頑張ればいいだろうと言われてしまう話だから。将棋に詳しくはないけれど、いつも励ましてくれるマスターが「八代君どうしたの?」と声をかけてきて、「いやあ、自分の中で大変なことがあって」と詳しいことは話さずに静かに飲みました。