膠着状態が破れたのは事件発生から1週間目の7月21日だった。

 正美ちゃんは長野にいた 犯人、渋谷で捕る ランドセル持った宮坂忠彦(38)

 正美ちゃんの誘拐犯人が21日夜10時20分捕まった。気づかわれた正美ちゃんは犯人の実家、長野県更級郡上山田に無事でいることも分かった。トニー・谷氏(東京都大田区新井宿4ノ1006)の長男、入新井第四小学校一年、正美ちゃん(6)が姿を消してから1週間目である。

正美ちゃんは容疑者の子どもと一緒に暮らしていた(朝日)

  読売の7月22日付号外はこう報じた。本文は次のようだった。

 21日午後9時ごろ、谷家に「正美ちゃんは預かっている。一度だけトニー・谷に会いたいから、10時までに渋谷駅ハチ公前に例のやつを持ってこい」という電話がかかった。朝から3度目の電話であった。その様子から真犯人ではないかとみた捜査本部では直ちに渋谷署に連絡するとともに、石井慶治刑事が単身渋谷駅前に急行。あり合わせの40万円の現ナマの包みを抱えて立っていると、白開襟シャツの40歳ぐらいの男が近寄り「トニー・谷か」と話しかけた。石井刑事は「トニー・谷からの使いの者だ」と言って近づき、近くの氷屋に連れ込んで様子を見ていたところ、正美ちゃんのネームの入ったランドセルを持っていたので、動かぬ証拠としてハチ公銅像前まで連れ出した。駅前大林薬局の前まで来て、逮捕しようとすると逃げ出したので、石井刑事は大声で「駅前交番に連絡してくれ」と薬局店主に頼み、立番中の渋谷署警ら係・山口英雄巡査らが協力して手錠をかけた。直ちに身柄を隣接の目黒署に留置。捜査本部・出牛警部が取り調べたところ、男は長野県更級郡上山田町、無職・宮坂忠彦(38)で、正美ちゃんを誘拐してから長野県の自宅にかくまっていることを自供した。同本部では直ちに、正美ちゃんを救出するため刑事を長野に急行させるとともに、宮坂を大森署の本部に移し、共犯関係その他を追及しているが、宮坂は単独犯行を主張している模様である。

父兄のふりをして入り、学童に「トニー・谷の子の正美ちゃんを知っている?」と聞いて…

事件解決を伝える読売号外

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 読売号外は「雑誌発行資金欲しさ」の見出しの別項記事で自供内容を書いている。

 宮坂は正美ちゃんを誘拐した動機と犯行の一切を次のように自供した。

 動機はかねて計画していた雑誌「信州業界」発行の資金を得るためだった。ちょうど「主婦の友」でトニーさん一家の写真を見て、正美ちゃんのあどけない笑顔に目をつけ、さらに他の雑誌で見たリンドバーグ事件の記事から、この犯行のヒントを得た。

 事件の1週間前に上京して、トニー・谷家の周りをうろつき回り、犯行前日には、正美ちゃんが通学している入新井第四小学校付近を調べた。事件の当日の15日には、雑誌「平凡」から切り抜いた正美ちゃんの写真と、かねて田舎で書いてきた脅迫状を用意して学校に入り込んだ。ちょうど夏休み前のPTAの集まりがあり、父兄が大勢参観に来ていたので、そのまま父兄のふりをして入り、学童に「トニー・谷の子の正美ちゃんを知っている?」と聞いて顔を覚え、担任の先生と教室を聞いて、正美ちゃんが出てくるのを待ち構えた。授業が終わって正美ちゃんが出てくると、そのまま後をつけて午後1時ごろ、途中で呼び止め、用意した切り抜き写真を見せ「この雑誌の写真はおじさんが撮ったんだよ。もっとよく撮ってあげよう」と誘い出した。