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「第2局の敗北も含めて、dlshogiの特徴がよく出た対局だったと思います。そういう将棋をたくさんの人に見ていただけて安心しました」

(画像は電竜戦長時間マッチ「水匠 vs dlshogi」第3局 開発者座談会より)

 今後、開発の軸はディープラーニング系へと移行していくだろう。それは水匠の杉村も、やねうら王の磯崎も認めているし、実際にもう開発を始めている
 山岡はマシンに100万円を投じた。電気代も加えれば、さらに費用は高額になる。おまけにGPUの性能は飛躍的に向上し続けている。A100は1台で130万円以上だ。今後、さらに高額になるだろう。
 全く新しい技術を学ぶ必要がある上に、費用も莫大……将棋ソフト開発への参入障壁は、あまりにも高すぎないだろうか?
 しかし加納の答えは意外なものだった。

「いえ。今は最も将棋ソフト開発への参入障壁が低いと思います」

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「電竜戦の頃は3週間かかったGCTのモデル構築も、今は1日あれば同じ強さにできます。作業環境も、最近できたColabの有料版を使えば、月額1000円ほどで確保できる。あとは大会本番でA100が使えるような環境があればいい。それも1日なら、大してお金も必要ありません」

「それに、NNUEにはNNUEのいいところがあります。そこを突き詰めて今後も開発を続けていってほしい」

 山岡がHEROZのA100を自由に使えるようになった以上、チームの解消が訪れることを、加納は予感している。
 もともとクラウドリソースを融通したり、棋譜データを提供するくらいの、薄い繋がりだ。
 接点を極力少なくして、お互いが好きに開発する。
 そんな距離感だからこそチームとして機能したし、20年以上も付き合いが続いてきたのかもしれない。
 だから加納には加納の課題がある。

「まずは、モデルサイズを15ブロックにした場合の検証ですね。これは既に私のほうでも進めています」

「dlshogiに合わせて15ブロックにするのか? しかしリソースは不足していることがわかっているので、そこのチューニングが上手くいかないようであれば、GCTは今までと同じように10ブロックで軽くて速いモデルを作って開発を続けるというのも一つの案です」