「たとえ私の指がどうなっていようと、私はコートに立ちますからね」
ビリッと痺れるような痛みが、竹下の全身を走る。
「あ、やっちゃったな……」
竹下は、ボールを打ったコーチに気づかれないようそっとコートを抜けた。痛そうな顔をしてしまうと、そのコーチに気を遣わせてしまうという配慮からだ。
しかし竹下は、これまでの練習で一度も自ら練習を抜け出したことがなかった。その異変を察知し、駆け足で近づいてきた若宮啓司トレーナーに、竹下は「突き指かも知れない」と報告する。
若宮から異変を告げられた眞鍋は、誰もいない部屋に竹下を呼び出し、病院に行くよう命じた。
竹下は激しく抵抗した。
「病院に行っても、私はコートに立つことには変わりないんだから、行ってもしょうがないじゃないですか」
「ダメだ、行って来い」
「イヤ、行きません」
2人が押し問答をしているところに、若宮トレーナー、チームドクターの藤田耕司も加わり、竹下を説得する。
「やるにしても、怪我の状態がはっきり分かった方が対処のしようがある」
竹下はしぶしぶ納得したものの、藤田に付き添われて病院に向かう直前、眞鍋に断固たる台詞を吐くことも忘れなかった。
「たとえ私の指がどうなっていようと、私はコートに立ちますからね」
竹下はこのときの様子を後にこう言った。
「自分でも、尋常じゃない痛みから、指が普通じゃないということはうすうす分かっていました。でも、この期(ご)に及んでコートに立てないなんて、私の発想にはなかった。痛みなんて我慢出来るし……」