著名な画家の孫娘として何不自由なく育ち、美貌と才知で知られた夫人・鳥尾鶴代。しかし、終戦後のある日、官邸のディナーでGHQの高官ケーディスと出会う。始まった“ダブル不倫”はその後、社会を巻き込む大事件と大きく関わっていった――。

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「主人にはなく不満に思っていたものを全部身につけたような男性が現れたのだ」

 ケーディスと鶴代はますます親しくなっていった。ケーディスにはアメリカに妻がいたから、ダブル不倫ということになる。「このころ、ケーディスはよくわが家へ遊びに来るようになっていた。主人も子どもも言葉が分かるし、彼は家庭的な雰囲気を懐かしがって、皆でウイスキーを飲むことが多かった」と書いている。

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「主人と私の間はもうかなり前から冷えきっていた」とはいえ、夫のいる家に? とちょっと驚くが、自伝ではこうも書いている。「私たちはもう結婚する時にお互いの自由を認め、お互いが浮気をしたり、恋人ができたら束縛はしないことを話し合っていた」。夫も秘書の女性と恋愛関係にあったという。

「(夫は)実にいい人で趣味もよく、ロマンティックでハンサムだった。しかし、生きていくということに燃やすバイタリティーがなかった」

「あまりにも頼りなくて消極的だった。だんだんと私の心は彼から離れて行った」

 ケーディスについてはこう書く。「私が主人にはなく不満に思っていたものを全部身につけたような男性が現れたのだ」「決断力、抱擁力、女子どもをいたわり養う力」「私と主人の仲は肉体的にも精神的にもすっかり離れていて、その分だけ反比例して、私とケーディスの仲は深まった。精神的にも物質的にも」。

ケーディスと腕を組む鶴代。記者が留守中に接写した写真か(「週刊サンケイ」より)

自伝では控えめな表現だが…

 自伝では控えめな表現だが、彼女にはもう1冊、著書がある。「週刊サンケイ」に連載したエッセーをまとめた「マダム鳥尾」名義の「おとこの味」(1969年)。親しい編集者に気を許して話したのだろうか、内容はくだけた男性論といえば聞こえはいいが、はっきり言って下品。その中ではあからさまにこう書いている。

「ケーディスはセックスも含めて満点に近かった。私の知っている男性では最高だった」