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92歳の橋田壽賀子が語る「わたしの理想の死にかた」

2018/06/02
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スイスは80万円で死なせてくれる

 死が目前に迫ったとき、延命治療をしないのが尊厳死。安楽死はさらに進んで、積極的に死期を早めることです。尊厳死を法律で決めている国はたくさんありますが、安楽死は、ヨーロッパのいくつかの国とアメリカのいくつかの州でのみ合法です。しかし希望すれば誰でも死ねるわけではなく、治らない病気で耐えがたい痛みがあること、などの条件があります。スイスにだけ外国人を受け入れてくれる団体があって、費用は80万円ほどだそうです。

 正確には、ルールに則(のっと)った自殺幇助(ほうじょ)です。したがって、医師が自ら注射や点滴をするのではなく、処方された致死量の薬を、死ぬ人自身が飲むのです。

 日本では、尊厳死は認められていますが法律はなく、あらかじめ「延命治療はしません」と意思表示をしておくことが必要です。胃瘻(いろう)や人工呼吸器や延命のための点滴など、もちろん私はご免こうむります。けれども尊厳死では、死期を選ぶことができません。やはり安楽死でなければダメなのです。

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橋田壽賀子氏 ©鈴木七恵/文藝春秋

 いわゆる「終活」は、89歳のときに始めました。88歳から急に体力が落ちたこと。90になったら脚本の仕事から引退する、と決めていたこと。「ママ」と呼んで親しくしてくれる女優の泉ピン子から、「ママはもう、じゅうぶん歳を取ってるんだよ」と言われたことがきっかけです。ドラマの原稿や放送されたビデオテープをはじめ溜め込んだ物を整理して、段ボール10箱分捨てるだけで2年かかりました。

 合わせて、死んでも公表しないと決めました。目立たずにいつの間にかいなくなって、「そういえばあの人、最近見ないわね。あら亡くなったの」というのが理想です。比べるのもおかしいですが、2015年に亡くなった大女優の原節子さんのように。

 葬式も、偲(しの)ぶ会やお別れの会もやらないと決めました。葬式というのは、遺された家族のためのものです。家族のいない私の葬式は、どうせお義理で来る人ばかり。やらないほうがいいのです。