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 その点、ホタテは被害が少なかった北海道から半成貝(はんせいがい)を買っていたので、鮫浦湾内にイカダを設置できれば、すぐにでも養殖が再開できた。半成貝とは生後約1年半の小さな貝のことだ。この段階から養殖すれば、その後1年を待たずして出荷できた。

 震災前はホヤが中心だった寄磯浜でも、ホヤを収穫した後のつなぎとしてホタテを養殖する漁師がいた。ホヤ養殖を行っていた34軒のうちの約15軒。渡辺さんや遠藤さんもそうだ。船を失った人もいたので、当初の作業は共同で行った。

 だが、大きなハードルがあった。本格的な再開にはまとまった資金が必要で、特にホタテの養殖には費用が掛かった。

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 まず、船を失った漁師は新たに買わなければならない。渡辺さんは「ホヤの養殖は1.5トン程度の小型船でもできますが、ホタテは貝の重さが違うので3トンぐらいの船が必要になります。住む家も再建しなければならないのに、漁業倉庫の建設費、資材の購入費、船舶保険代なども必要で、多くの人が借金をしました」と語る。

 そうして、やっとの思いで再開にこぎ着けた漁師を、今度は原発事故の風評被害が襲った。

津波で破壊された家を解体した空き地には、漁業倉庫を建てた人もいる(寄磯浜)©葉上太郎

「県外の取引先を全て失った」そう話す福島県の食品メーカー

 福島第一原発の事故が収まっているかのように見えるのは、溶けた核燃料(燃料デブリ)を水で冷やし続けているからだ。水が途絶えれば、また暴走してしまう。

 燃料デブリを冷却した水は放射性物質で高濃度に汚染されている。

 東電は汚染された冷却水から放射性物質を取り除くために、ALPS(多核種除去設備)を導入した。だが、2013年4月に地下貯水槽から汚染水漏れしていたと分かり、同年8月には地上タンクから300トンもの高濃度汚染水が漏出していたことが発覚した。これを契機として風評被害が拡大し、福島県内では「県外の取引先を全て失った」と話す食品メーカーもある。

 波紋は外国にも広がり、韓国政府は2013年9月、8県(青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉)の水産物を全て輸入禁止とした。この措置は現在まで続いており、両国の関係が悪化したせいだと見ている人もいる。

 寄磯浜では翌2014年、震災後に養殖を再開したホヤが初めて収穫できた。が、最大の出荷先となるはずだった韓国には出せなくなっていた。ホヤは出荷までに最低3年も掛かることから、韓国への輸出を見込んでたくさん育てていたのに、行き場を失った。