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 その分は国内で消費できなかったのか。

 ホヤは水揚げ直後だと臭いがない。しかし、時間が経てば経つほど独特の香りがし、「通」の中にはこれが好きだという人がいるものの、好き嫌いがハッキリする。首都圏などへ出荷すると時間が掛かり、どうしても香りがしてしまうので、急に消費拡大しようとしても難しかった。

 このため宮城県内では2016~18年に大量のホヤが廃棄された。「大事に育てたホヤだから、誰も処分したいなんて考えません。しかも津波からの復興はこれからという時だったのです。涙ながらでした」と遠藤さんは語る。

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 これを契機にホヤ養殖だけには東電から賠償金が出るようになったが、寄磯浜で生産されるホヤは「1kg当たりたったの70円でしか引き取ってもらえなくなりました。震災前はキロ当たり120~150円、高ければ200円という時もあったのに、完全な赤字です。賠償金で何とか埋め合わせをしてきたのが実情です」と渡辺さんは苦しげに語る。

賠償金も23年12月で終わる。借金を抱えた漁師たちは――

 その賠償金も2023年12月で終わる。漁師の暮らしはなり立つのだろうか。津波で抱えた借金はまだ多くの漁師が完済できていないのだ。

 寄磯浜の漁師が代わりに活路を見つけようと生産量を増やしたのはホタテだった。震災前はホヤの合間に取り組んでいた程度だったが、逆に力を入れた。「ホタテはホヤのような水揚後の香りの変化が乏しく、全国どこでも好まれる」(遠藤さん)というのも理由だった。

 ただし、ホヤからホタテへの転換は簡単ではなかった。渡辺さんは「まず船を大きくしなければならないので、経費が掛かります。さらに半成貝を北海道から買うのに1000万円単位の資金も必要です。イカダに吊るすために殼へ穴を開ける機械や、出荷時に殼についたフジツボなどを掃除する機械もそろえなければならず、これらは何百万円もします。さらに殼に穴を開けた後にピンを差し、ロープに取り付ける作業を人の手で行うので、人を雇えば人件費も掛かる。家族経営でできるホヤ養殖とはかなり違い、おいそれとホタテ養殖に転換できるわけではないのです」と説明する。

養殖用の船が整然と並ぶ(寄磯浜)©葉上太郎

 それでもホタテは価格が安定していて、一定の収入に結びついてきた。ところが、この3年ほどで風向きが変わり、半成貝がどんどん値上がりを始めた。

 背景にあるのはホタテの海外輸出の増加だ。2022年の全国輸出量は前年比で42.4%も伸びた。特に半成貝は韓国への輸出が増えているという。養殖用ではなく、食べるのだ。

「その煽りで私達が買う養殖用の半成貝も3割ほど値上がりしました」と渡辺さんは漏らす。遠藤さんは「これに連動して仲買人が私達から買い取る価格も上がってはいるのですが、スーパーなどでの値段も上昇していて、もうこれ以上に値上がりすると売れなくなるのではないかと冷や冷やしています」と話す。