「宇宙人?」「ええ、あれはテレパシーで交信しています(笑)」
1時間を超え、またもや口頭だけで感想戦をはじめた。そのうち盤面とは関係ない局面の話に。あらら1日目に戻っているよ。
「あー、それはわかんないですねえ」「そうですか。なんともいえないですか」「いやー、どっちがいいのか」「いや微妙過ぎてわからないですよねえ」「このへんは課題でわからないですね」と楽しそうに会話している。
私は最初は手順が追えていたが、途中から何を言っているのか分からなくなった。
やがて羽生は笑いだし、藤井も笑みを浮かべている。えっ、いったい何が面白いの?
どうして2人は話が通じているの?
あとで深浦に聞くと、「いえ、私も最後はわかりませんでした。羽生さんは藤井さんが言っていることが全部分かっているんですよね。凄いですよね。よく理解できますよね(笑)」。私が「宇宙人って書いてしまったんですけど、あながちおおげさでもないですか」と言うと、「ええ、あれはテレパシーで交信しています(笑)」と深浦は心から笑った。
最後に羽生と深浦の良い笑顔が見れて、なんだかホッとした。
藤井の心に刺さった「第1局の△3七歩」
私は局後の記者会見を最前列で見ていたが、藤井は対局後で疲れていても、将棋の話になると雄弁になった。
特に「第1局の△3七歩」について、2度も会見のなかで言及した。
「△3七歩自体は、少し手を渡すようなふわっとしたところがある一方で、こちらが踏み込んだ手を選択すると一気に終盤に入る可能性があるというところで、指される前はやりづらい手かなと思っていたんですけど、実際に指されてみると、△3七歩に対応する手、こちらが攻めていく手、どちらも難しいことが分かったので、少しやりづらそうに見えるところを掘り下げて、そこに可能性を見いだす、というのが強さなのかなと感じたところもありました」
と、この手をいつまでも語りたそうにしていた。
レジェンドはありとあらゆる技術を駆使して全力で戦った
羽生のテクニックは第1局の△3七歩だけではない。
第2局の▲8二金は、敵玉の反対側に駒を打ち込む、通称「羽生ゾーン」、筋が悪い手だな、緩い手だ、と思っている内に倒してしまう得意の手だ。
第4局の桂捨ての猛攻も、藤井のお株を奪う桂使いだった。
第5局では不利な局面で粘り強い受けでしのぎ、攻めに転じるという見事な攻守の切り替えで逆転した。
羽生はありとあらゆる技術を使って、戦った。相手が藤井でなかったら、最低でもフルセットまでいっただろう。ああ第7局が見たかった! とにかく藤井が強かったのだ。
1月8日の第1局から、夢のような2か月間を過ごさせてもらった。素晴らしい番勝負だった。
ありがとう、藤井聡太。ありがとう、羽生善治。