あわてて撮られてブレブレの写真…その撮影対象は?
写真4-44はブレてしまっており、失敗写真のうちに入るだろうが、そこに写っているのが誰なのか容易に判断できる点が面白い。
撮影者は恐らく、突然自分が天皇夫妻を至近で撮影できる位置にいることがわかって、慌ててカメラを構えたのだろう。プライベート写真ならではのリアルな一枚である。
コマ番号の連続する次の写真4-45では壇上の夫妻が明瞭に撮影されているが、もはや前の写真のような撮影者自身の存在は画面から消えている。
後者から1949年に皇居前広場で行われた憲法施行2周年記念式典において撮影されたものであることが判明したが、式典の出席者一覧と見比べると、マイクの前にいるのは当時衆議院議長であった元首相の幣原喜重郎ではないかと考えられる。スライドが収められていたコダックの返送箱に記されていたアドレスによれば、撮影者はGHQの民間諜報局公安課という治安関係の部署に属していたようであるが、他の写真を見ると職務上天皇夫妻のそばにいたという感じではない。
しかしながらやはり一般の日本人よりは規制されにくい立場だったのか、同じ時に比較的近くで天皇を写したものが他に2枚含まれている(図4-9/10)。どちらも同じようにブレたり妙なアングルだったりするが、普段はやや暗いところでもブレずにしっかりと被写体をカメラにおさめることができる技術を持っており、やはり皇居前のこの瞬間は彼にとっても特別なものだったらしい。
全般的に当時のフィルムは現在のデジカメと比べて感度が低く、フラッシュもカメラと別売りのうえ一回ごとに球を交換せねばならかったため、夜、ことに野外の撮影は面倒であった。アマチュアにとっては撮ろうという気さえ起こらなかったかもしれない。特にコダクロームは著しく感度が低く、夜に撮影されているもの自体が珍しいが、写真4-46は飲み屋の店先で調理人風の男性が着物を着た女性の頬に顔を寄せているという、さらに珍しい場面を写している。