それぞれの里親から聞いた里子たちの状況は、想像を絶するものだった。「愛着障害」はほぼどの子にもあり、なかには幻聴や幻覚、解離などの重たい症状を持つ子も少なくなかった。施設養育で、ネグレクトや暴力などの犠牲となっている子もいた。それほどまでに痛めつけられ、深い傷を負った子どもたちだったが、里親からあたたかい愛情をうけ、安心できる家庭という居場所を得て、確実に育ち直しの時を生きていた。回復していく子どもたちの姿に、紛れもなく「希望」を得た取材だった。
そして、取材の終盤に、私は滝川沙織さんという女性と巡り合ったのだ。
沙織さんが住む街で、私たちは初めて会った。冬の終わりの頃だったと思う。ユニークなデザインの白いニット帽がよく似合う、切れ長の瞳が印象的な美しい人が目の前にいた。小柄で、アート系のセンスを感じる服装もきっと、「彼女らしさ」なのだと感じた。一目で、女優の尾野真知子によく似ていると思った。
取材に際して、沙織さんは、話す内容をまとめたメモを手にしていた。瞬時に、ある文字に目が射抜かれた。私はこれから、たじろがないで、彼女が語る事実を受け止められるのだろうかと身を固くした。
沙織さんは当時、6歳の夢ちゃんと2歳の海くんを育てていた。夫は、会社員。実母の記憶がなく、育ててもらったことのない彼女にとって、子育ては「やってもらえなかった」ことが1つ1つ甦る、苦しみの過程でもあった。
「誰が、私が歩いたことを喜んだ? 七五三なんか、誰がやってくれた? え? 誕生日なんて、何もない」
夢ちゃんは3歳になるまでほとんど寝ないという、非常に育てにくい子だったということも相俟(あいま)って、夢ちゃんへの殴る蹴るの虐待がどうしても止まらないという「今」を、沙織さんはありのまま、赤裸々に語ってくれた。
三代続く虐待とネグレクトの連鎖
悲しいまでの虐待の「連鎖」に、胸が潰れるような思いを抱え、彼女の言葉を受け止めた。