お姉さん以外のことといえば、毎日、一人で遊んでいて、てんとう虫を捕まえて、潰して、おもちゃの冷蔵庫に入れていたことしか、覚えていません。お寺に帰りたいから、毎日、わざと、おねしょをして、それで養子は無理だとなって、お寺に帰ってきたのです。
なんで、でしょう? お寺は寒いし、少ししかごはんはないし、朝早く起こされて掃除をしなきゃいけないのに、五島の家では大切にされたのに、なんで私はあんなにムキになって帰ってこようとしたのでしょう。あの時、「本当のお父さんとお母さんだよ」って言われたら、懐いていたのかなー。幼稚園に入れてくれて、友達ができたら、また変わっていたのかなー。やっぱり、あの時、あの家の里子になっていればよかったのかな……。時々そう思うことがあります。
里子の中に、学くんという悪いことばっかりする子がいました。車とかに落書きをするんですよ。釘で、ギーッて。それ、多分、私も一緒にやった気がします。車のボンネットに、ドラえもんを描いたことを覚えています。
学くんは悪いことばかりするし、何か悪さをすれば施設に送られてという、施設とお寺を行ったり来たりしていました。学くんの苗字は捨てられていた街道の名前で、「学」という名はたぶん、施設の人がつけたと聞きました。私にはまだ祖父母がいたけれど、学くんは最初から誰もいない子どもでした。学くんは本当に悪いことばっかりする子で、すぐ人のものを盗んでいました。友達の筆記用具とか、いろんなものを。でも、いつも里子同士、一緒にいる私も同じでした。学くんは私たちに悪いことを、とっても親切に教えてくれるんです。
シルバニアファミリーを1つだけ盗んだ
小学校に、シルバニアファミリーのおもちゃを持ってきた子がいました。その時、私は「シルバニアファミリー」自体、名前もそうだし、何のことかわかリませんでした。でも、その見たこともないお人形たちは、ものすごく可愛くて、キラキラしていて、眩しいぐらいに輝いていました。その子は、その可愛い人形を給食の時に、ずらりと机に並べたんです。だから、私、そっと1つだけ盗みました。そしたら、その子がクラスの子一人一人に人形を持ってきて聞き始めたのです。「この子のお友達の、誰々ちゃんがいなくなったんですけど、知りませんか?」って。焦りましたけど、私は「知りません」と答えました。なんで、盗んだかって? どうしても、欲しかったから。