母子手帳に残る、母の痕跡。生後2カ月までは実母が手元で育てたことは確かであり、何らかの「精神的」理由で、育てることができなくなったのだ。この記録以外、沙織さんには、実母が自分を置いて消えた理由について辿るすべがない。

沙織さんの「普通」だった日常の一コマ一コマに、心が凍りつく。

黒川 祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション作家
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)、『母と娘。それでも生きることにした』(集英社インターナショナル)などがある。
次のページ 写真ページはこちら