そこからは「お兄ちゃん」って呼ぶようになったのですが、「お兄ちゃん」とは呼ぶのですが、それがどういう意味なのかもわかっていませんでした。里子はみんな一緒に暮らしているから、「お兄ちゃん」と他の里子がどう違うのか考えたこともなかったし、何もわからないまま、それまで暮らしていたのです。突然、「お兄ちゃんと言え」と言われましたが、私はずっとこれまで通りに「かずちゃん」と呼んでいたように思います。
これが私にとっての「普通」の生活でした。
なぜか、幼い頃からずっと不眠でした。自分は何のために生きているんだろうって、小学校低学年の頃から思っていました。生きる意味がわからない。「生きるって、そんなに大事なことなの?」って、ずっと思っていました。
「この人がお母さんになってくれたらいいな」
一度、別の家に里子に出されたことがありました。お寺の息子さんが九州の五島列島まで送ってくれたのですが、そこは立派なブドウ農家で、夫婦に子どもができなかった家でした。その家のお父さんとお母さんは優しくて、何でも買ってくれたし、お姫様みたいなドレスも着せてくれました。でも、私はちっとも、その人たちに懐きませんでした。
一人だけ、大好きになった人がいました。その家の親戚だったのかどうかはわかりませんが、きれいなお姉さんでした。私はこの人がお母さんになってくれたらいいなーって、心の中でお祈りしていました。手をつないだだけでドキドキして、私に笑ってくれるだけでとろけるような気持ちになりました。ある時、お姉さんのお腹が大きくなって、お腹に赤ちゃんがいることを教えられました。しばらく、お姉さんと会えなくなって、久しぶりに会った時には、お姉さんは赤ちゃんを胸に抱いていました。その時、その赤ちゃんに明確な殺意を持ったことを覚えています。赤ちゃんにお姉さんが取られてしまったことが悲しくて、悔しくて、だから「殺したい」と思ったのです。