誰も検討していなかった藤井の一手に皆が驚く
そうなる気はしていたが午後は手が止まっている。控室では皆で盤を挟んで意見を述べ合い、しらみつぶしに検討していく。
やがて、成銀を取り、金打ちには飛車を見捨てて玉を早逃げし、▲7二飛~▲4一銀の筋で攻め合うのが良いという意見でまとまった。とはいえ、これは膨大なトライアンドエラーを繰り返した結果だ。私は藤井側を持って駒を動かしていたが、谷川に「それは△6九角が詰めろで?」など、何度も谷川光速流を食って藤井玉を寄せられてしまった。
今回は控室の予想が当たらない。藤井は77分もの大長考で2筋の歩を突く。この手は検討しておらず、皆が「ええっ」と驚く。まあ、この歩を入れたとしても、やはり飛車は二段目から打つだろう。だけど藤井は再び長考している。何か気にかかる変化があるのかと皆で話していると、解説を終えた斎藤が控室に戻ってきた。
「63手目を〈次の一手〉問題にしたのですが、歩を突く手は候補手から外してしまいました」
と苦笑い。そして、一緒に解説していた古賀が芸術的な詰み手順の変化を披露したことも教えてくれた。
「斎藤さんに『私は詰みました』と言われて焦りました」と古賀。斎藤と古賀はABEMAトーナメントで藤井に指名され、「チーム詰将棋パラダイス」を組んだチームメイトだ。
藤井はテレビのインタビューで、「複雑な終盤戦というのが一番ワクワクする面白い状況と感じますし、そこでの一手をファンの方に期待していただいていると思うので、そういう将棋をお見せできたらと思っています」と語っていたが、ここにいる棋士たちも大いに楽しんでいることは間違いない。皆とても楽しそうに難解な終盤を考えていた。
飛車取りを無視し…またも予想は外れ、驚く控室
藤井は再び58分使って成銀を取る。持ち時間5時間のうち、たった2手で135分も使った。伊藤が飛車取りに金を打つ。ここまでは予想通りで、飛車を逃げてからの寄せ合いが斎藤・古賀の見解だった。
だが、またも予想は外れる。飛車取りを無視し、玉頭に歩の王手をしてから後手陣の一段目に飛車を打ちこんだのだ。再び驚く控室。
17時、ここで夕食休憩に入る。時間は30分と短いし、軽食かと思いきや、2人ともボリュームのある「五目あんかけ焼きそば」を頼んでいた。「マンゴープリン」も添えられていたけど、食べ切れるのかな。




