藤井聡太王座に伊藤匠叡王が挑戦する第73期王座戦五番勝負、第2局は9月18日に兵庫県神戸市「ホテルオークラ神戸」で行われた。30分間の夕食休憩明け、控室は「これで藤井が寄せ切るだろう」という雰囲気だった。ところが、伊藤が指した「次の手」ですべてが一変した。
伊藤の78手目に棋士全員の表情が「ハテナ?」
時刻が18時20分を過ぎた頃、伊藤は自玉横の銀をつまみ、銀を上がるのではなく、下がった。残り47分中31分を使って78手目△2二銀引! なんだこの手は? 棋士全員の表情が「ハテナ?」となった。
5五の馬に働きかけるわけでもない、攻める手でもない。相手に手を渡しただけ。一手違いの寄せ合いなのに、こんな消極的な手ではだめだろう。皆がそう思っていた。ところがである。これにより伊藤玉がなかなか寄らなくなったのだ。
じっと数を足す手はどうだ、桂を捨てて一気に寄せる手はどうか。村山や森本が述べ、調べるが、しかしどれも決め手に欠ける。なんでこんなに難しいんだ? 皆が首をかしげる。2二銀、3一銀の連絡が良く、また1三へ玉が逃げる手があるからだ。
ここで私ははっと気がついた。そうだ、6手目△1四歩だ。まさか6手目が玉を逃げるための伏線になるとは。いや、これは偶然ではない。1筋の突き合いがあるからこそ、伊藤は駒損での猛攻をかけたのだ。
「中段玉寄せにくし」を具現化したような混沌とした状況
藤井の手が止まる。控室も結論が出ないままだ。藤井は3筋の歩を突いた。さらに伊藤の玉頭にも歩を打つが、伊藤は上部を開拓しにいく。
藤井が先に1分将棋になり、寄せをあきらめて玉を上部に逃げた。これでは指し手に一貫性がないと、どよめきが起きる。伊藤も秒読みに入り、馬をつくって守りに働かせる。藤井玉が5六、伊藤玉が2四、双方ともに中段玉となり、もう何がどうなっているのかわからない。
「中段玉寄せにくし」を具現化したような混沌とした状況だ。入玉も見えてくる。




