大盤解説会場に向かうときも、心ここにあらずといった感じで…
終局後の藤井へのインタビュー。
「△2二銀引が見えていなくて、その局面は指せているかなと思っていたのですが、構想がまとまらないまま進めてしまって崩れたという感じがします。残り時間が少なくなってきてからの指し手の精度が急激に落ちたので、反省して次の対局に臨みます」
大盤解説会場で伊藤は、心なしかいつもより力強い声で語った。
「午前中から激しい展開になって、昼食休憩のあたりでバランスを保つ順が発見できず、苦しい展開が続いたと感じています。ただ苦しいながらも粘り強く指すことができたのはよかったと思います。中盤に課題があったので、次局以降修正して、より良い内容で指せればと思います」
大盤解説会場に向かうときも、藤井は心ここにあらずといった感じで考えていた。また、大盤から戻る間も将棋のことが頭から離れない様子だった。悔しさと腹立たしさが溢れ出ていた。
見切り発車をしない藤井だからこそ指せなかった▲2六桂
21時過ぎから感想戦に入った。藤井は自分への怒りを隠そうともしなかった。猛スピードで51手目まで進められた。これだけ落ち込んでいる藤井を見るのは初めてだ。それでも10分後には藤井は笑顔を見せた。
伊藤が正直に「本譜を軽視していました。馬を5五に引かれて、どうやってもきついと」と言えば、藤井も「△2二銀を引かれてチグハグになった」と答えた。そして問題の△2二銀引の局面になり、藤井がすぐに2六に桂を打ち付けた。AIが▲2六桂を示してはいたものの、その後の展開が不透明で、控室では「実戦では指しにくい」と言っていたのだ。藤井は読めなかったのではない。見切り発車をしない藤井だからこそ指せなかったのだ。感想戦でも、明快な手順は出なかったが、藤井は「こちら(▲2六桂)でした」と悔やんだ。
そして駒を動かさず会話だけになっていく。藤井は明らかに▲2六桂を逃してからの手順を並べるのを拒んでいる。谷川が観戦記者の若島正さんのために質問すると、藤井は予定変更があったこと、寄せにいっても先が読みきれなかったこと、寄せにいくべきだったと正直に答えた。




