藤井聡太王座に伊藤匠叡王が挑戦する第73期王座戦五番勝負(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟、特別協賛:東海東京証券)がはじまった。開幕戦のシンガポール対局では、振り駒で後手番となった藤井が先勝。第2局は9月18日に兵庫県神戸市「ホテルオークラ神戸」で行われた。

両者の研究が一致している上に、互いに妥協しない展開

 先手の藤井はいつも通り角換わりに誘導するが、伊藤が6手目に1筋の端歩を突く変化球を投げる。藤井は3分考え、力戦への誘いには乗らず、結局、1筋の端歩の突き合いがある以外はオーソドックスな角換わりに戻した。

控え室のモニターに映し出されていた王座戦五番勝負第2局の模様

 うであるにもかかわらず、いやもちろんというべきか、角換わりになった場合の作戦も伊藤は用意していた。それが6四に銀を繰り出す早繰り銀だ。伊藤が角換わりの後手で、早繰り銀を自発的に採用するのは初めてであった。

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 だが、藤井も早繰り銀を想定していた。対局開始50分も経たずに38手目、伊藤が端角を打てば、その5分後には藤井の桂が三段跳びして王手金取りをかける。両者の研究が一致している上に、互いに妥協しない展開で、局面の進むスピードが非常に早い。さらに伊藤は飛車角の筋を通すべく銀をぶつけ、藤井は敵陣から取ってきたばかりの金で防ぐ。

藤井聡太王座

 私はその頃ようやく最寄りの三宮駅に着いて、ホテルまでのシャトルバスを待っていたのだが、あまりの展開に焦る。早く現地入りしたいが、次のバスは30分後だ。

「どうしてこの局面に?」本来なら午前中にはしない会話

 やっと11時前に現地に到着して、早速、立会人の谷川浩司十七世名人、新聞解説の村山慈明八段に挨拶。継ぎ盤を見ると、あらら、もう終盤戦の局面になっている。

控え室で検討する谷川浩司十七世名人(左)と村山慈明八段(右)

 村山に、「どうしてこの局面に?」と聞くと「伊藤さんが銀を見捨てて桂を跳ねて猛攻すると、詰むか詰まないかの局面になるんです」。「これ、本来は午前中にやる会話じゃありませんよね」と私が言い、「勝又さん、早めに来てよかったですね」と返されて2人で苦笑いした。

「銀をぶつける手も金を打ち返す手もすぐに指したのには驚きました。すごい研究ですね」

 序盤研究に定評のある村山が感嘆する。