各紙面では同情的な声が

 同じ11月26日付大朝は1面コラム「天声人語」で問題を論じた。戦前は門跡寺院には宮内省(当時)からの補助や寺領からの収入もあったが、いまは事情が一変。

「門跡がどんなに活動家であったとしても、寺を維持していく責任を思えば、その苦労は並々ならぬものだっただろう」

 

「必要に迫られて世間の風にも触れれば、7歳にして小鳥のようにカゴに入れられて生きてきた自分の生き方にも懐疑的になるかもしれない。厳しい戒律ややかましい格式。動揺する心の隙間に恋の感情が忍び寄ったとしても、それは十分あり得ることである」

 

「彼女に何か過ちがあったとしても、それは許されるべきである。彼女をしばらくそっとしておこうではないか」

「事件」は朝日の「天声人語」でも取り上げられ

 この「天声人語」の記事は東朝では11月28日付に掲載された。これに対し、12月4日付東朝朝刊の「声」欄には「全く同感でした」という女子学生の投書が載った。文化財保護の立場から、寺の人々の生活を安定させるために政府の援助を要望。全体として各紙の論調は尊昭尼に同情的だったといえる。

「天声人語」を受けて尊昭尼に同情的な投書も(東京朝日)

 大和は11月27日付社会面トップで「尊昭尼・出寺の動機はこうだ 落ち着きを取戻した中川君語る」を掲載。中川青年が父親同席で取材に応じ、尊昭尼が出奔の前日の11月8日夜、投書をきっかけに、茶道の弟子たちがいる前で近衛前門跡から厳しく叱られ、弁解も聞き入れられなかったと語り、「ショックは計り難いものだっただろう」と推測した。

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大和タイムスは中川青年から出奔の動機を聞いた

尊昭尼から「真実」を語る手紙

 さらに11月30日付同紙には再び社会面トップで「眞(真)実はこうなのです 尊昭尼から本社社長に手紙」が見出しの記事がーー。

「仕事の関係や比較的近くに住んでいた関係で親交のあった今西社長を通じ」「やっと落ち着きを取り戻した尊昭尼から『真実はこうなのです』という次の一文を29日、受け取った」としている。それによれば、9日に「門跡を辞めたい」と簡単な手紙を残して寺を出て、大阪の実弟宅に身を寄せた。子どもの関西修学旅行に同行してきた実姉も含めて協議。23日、正式に辞表を提出し、24日、熊本に向かったといい、次のように続けた。