8月15日の午前4時。訪問看護師さんから電話が入ります。夜中に39度超えの発熱があり、訪問看護師さんが対応してくださったのです。熱を下げる座薬を使っても熱が下がらず、身の置き所がなくてつらそうとの電話内容でした。
この日の日中、血圧が低かったのですが、それでも「血圧が下がってもかまわないので医療用麻薬の座薬と熱を下げる座薬を同時に使って、しんどさをとりましょう」と指示を出しました。
この段階での「血圧が下がる」とは、「そのまま心臓が止まる可能性がある」と同様の意味です。心臓が止まる可能性がある指示を、このときの私は出したのです。
しかし、これは自分の家族だから出したのではありません。家族ではない一般の患者さんにも出します。それは、最期を迎えようとしている患者さんの苦痛を取り除くためです。
「そろそろ動けるように準備をしておいて」
心臓が止まるのは「リスク」ではなく、患者さんにとっては「自然」なことです。薬を使っても使わなくても心臓は止まります。
「リスク」といって苦痛を放置することのほうが、むしろリスクなのではないか。そのように考え、苦痛を放置するよりも、つらそうにしている患者さんの苦しみを緩和する目的のために、血圧が下がる可能性のある薬を使うことがあります。
もちろん、患者さんの家族にきちんと説明します。もしコミュニケーションがとれる状態なら、本人にも説明します。
「体がしんどい状態ですと、血圧を上げるホルモンが出ます。しんどさをとると、体がラクになってホルモンが下がり、血圧を下げることになるので、その結果心臓が止まる可能性があります。心臓が止まるかもしれなくてもしんどいのをとったほうがいいか、薬で血圧が下がって心臓が止まるのは避けたいと考えて血圧を維持するほうがいいか、どちらにしますか?」
このように伝えて、選んでいただくのです。
この究極の2択ともいえる問いに、「しんどさをとってほしい」と言うご家族もいれば、「血圧が下がるならやめてほしい」と言うご家族もいます。