藤井聡太王将に永瀬拓矢九段が挑戦する、第75期ALSOK杯王将戦七番勝負(主催:日本将棋連盟、特別協賛:ALSOK、特別協力:毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社)の第6局が、3月18・19日にかけて名古屋将棋対局場(名古屋市中村区)で行われた。

 藤井の先手で、戦型は角換わりに。永瀬は前例のない意表の仕掛けを見せたものの、藤井がうまく対応して、逆に苦戦を強いられる展開となった。(全2回の2回目/前編を読む

藤井聡太王将(左)に永瀬拓矢九段が挑んでいる 撮影=勝又清和

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藤井のおそるべき読みの正確さと深さに永瀬は…

 やがて、藤井が決断した。

 まずは桂で銀を取ると、角を中央に飛び出して王をにらむ。永瀬は銀を上がって受けるが、藤井は角を逃げずに香を走り、角を銀と交換。そして一転、馬取りで自陣に銀を打った!

 自玉を安全にしつつ、敵玉の上部脱出をも防いだ、光り輝く銀。手の流れを無視した非常に指しにくい順で、普通は感想戦でさんざん調べた後にようやく発見するような手だ。それを実戦の限りある時間の中で指してしまうのだから、おそるべき読みの正確さと深さである。

 屋敷も私も、これで勝負あったと思ったが、永瀬の闘志はまだ消えなかった。金を取られるのを承知で馬を守りに使い、銀を打って補修する。さらに攻防に香を打って粘る。とはいえ藤井は冷静沈着で、逆転の火種を与えない。

 永瀬が脇息にもたれかかる。非勢の局面から逃げず、投げ出さない。ものすごい精神力だが、それゆえに辛いのだろう。私はモニターに映る姿を写真に撮りながら、胸が締め付けられる思いがした。

逆転の目がなかなか見えない

 だが、それでも永瀬はくじけない。手にした金を、自陣深くの竜取りに打ったのだ。なんという根性か。40手近くも永瀬陣内で暴れ回っていた竜を、ようやく追い出した。

 しかし、藤井は最後まで冷静だった。103手目、馬取りに銀を打ったのが決め手。馬を取れば永瀬玉が詰む。かといって馬を逃げれば攻め手がなくなる。永瀬は銀を打たれた局面で7分考え、午後6時3分、ついに投了を告げた。

 これで七番勝負は3勝3敗となり、決着は最終局に持ち越された。

指された棋譜は氷山の一角

 局後すぐのインタビューで、藤井はあの手順を発見したことで「そこでちょっと指しやすくなった可能性はあるのかなと思いました」と述べた。

 その後、両対局者は大盤解説会場の名古屋市中小企業振興会館へ車で向かった。その間に私と屋敷、記録係の山城正樹三段と3人で感想戦を行っていた。

 山城が盤側で読んでいた手を調べると、複雑な変化が次々と出てきて皆が驚く。「この手もあの手も、両対局者は読んでいるんだよなあ」と皆で感嘆した。指された棋譜は氷山の一角で、水面下には膨大な読みの量があるのだ。