ツイッター社長直撃「つぶやきの暴力」を考える

山田 敏弘 国際ジャーナリスト
ニュース 社会 企業
ツイッターは、世界中で3億3000万人が利用する巨大プラットフォームだ。社会を揺るがす影響力を持っている。だが、少しのぞいてみると、タイムラインには誹謗中傷、ヘイト発言が溢れている。なぜ放置されているのか。Twitter JAPANの笹本裕社長を直撃インタビュー。

ツイッターの実態を紐解く

「木村さんが亡くなられたのは本当に残念な事件だったと、お悔やみ申し上げます。番組を制作されている方からこちらに相談があるなど、事前に何かアクションがあれば弊社としても対処の仕方があったと思いますが……我々も番組を制作する方々の立場ではないので何とも申し上げられないところです」

 神妙な面持ちでそう語るのは、2014年から日本法人ツイッタージャパンの社長を務めている笹本裕氏(55)だ。

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笹本社長

 10代から20代の若者を中心に人気を博したリアリティ番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラーの木村花さん(享年22)が、5月23日未明、都内の自宅で自ら命を絶った。木村さんはその直前、自身のツイッターに次のような投稿を残している。

〈毎日100件近く率直な意見。傷付いたのは否定できなかったから。死ね、気持ち悪い、消えろ、今までずっと私が1番私に思ってました。お母さん産んでくれてありがとう。愛されたかった人生でした。側で支えてくれたみんなありがとう。大好きです。弱い私でごめんなさい〉

「テラスハウス」はシェアハウスに同居する男女6人の生活に密着し、恋愛を中心とした人間模様をリアルに映し出す。番組の注目度と比例するように、木村さんの番組内での言動を批判する投稿が、ツイッター上には溢れていったという。

 心無い誹謗中傷によって1人の女性の尊い命が奪われたという事実は、あまりにも重い。急激に巨大化したツイッターは、ついに暴走を始めたのではないか。ツイッタージャパンは自身が提供するプラットフォームをコントロールすることができているのか。そもそもコントロールする気はあるのか――。

 社会を揺るがすツイッターの実態を紐解くために、ツイッタージャパンの社長を務める笹本氏に直撃インタビューをおこなった。

なぜ日本で浸透したのか

「ツイッター」が生まれたのは2006年、米カリフォルニア州サンフランシスコだ。母親や親しい人たちと日常を報告し合いたいという、共同創業者のジャック・ドーシー(現CEO)の発想から生まれたサービスだった。その後、インターネットやスマートフォンの普及に伴い、利用者を急激に増やしてきた。今や時価総額262億ドル、世界中で3億3000万人が利用する巨大プラットフォームだ。

 ツイッタージャパンは、米国外の初のオフィスとして2011年に設立された。東日本大震災では、安否確認などの情報伝達手段として広く活用され、社会インフラとしての機能にも注目が集まった。現在の日本では、4500万人以上がツイッターを利用しており、その利用人口は米国に次いで世界2位だ。なぜ、日本でここまで浸透したのだろうか。笹本氏はこう説明する。

「色々と文化的な理由はありますが、匿名性があるということが大きいです。欧米では比較的実名で利用する人が多いですが、日本では本音を発信するという意味で、匿名でのアカウント開設が好まれます。そもそもインターネット自体が、匿名で参加できるがゆえに発展したもの、ということもありますしね」

 国ごとの文化的な背景によって、ツイッターの使い方も異なってくるが、アメリカ本社と日本法人の関係性はどうなっているのか。

「ジャック(・ドーシーCEO)が事あるごとに社内で言うのが、『ツイッターはアメリカで生まれた会社ではあるが、サンフランシスコ=本社ということではない』と。世界各国に責任者が点在しており、グローバルの会社だという考え方をしているんです。外部の方からはよく『日本独自の裁量で動いているんじゃないか』と見られがちですが、グローバルで機能やポリシーの追加や修正をおこなっています」

 気になるのは、ここまで肥大化したプラットフォームを、どこまできちんと「管理」できているのかということだ。

「ジャック自身もツイッターの影響力を自覚しており、プラットフォームをこのまま放置できないと感じるようになりました。そこで2017年から、彼が提唱する“健全性”のあるプラットフォームを目指すため、AI(人工知能)技術への投資を優先し、想定されていない悪意ある使い方などにも対応するために、さらなる管理の強化をしようと動いています。

 確かに創業当初と比較すると、ツイッターは全世界規模になり、時には国家を巻き込んだムーブメントを起こすような力を持つほどに成長したと思います。しかし、決して目が行き届かなくなっているとは思っていません」

 本当にそうだろうか――。

 冒頭で触れた木村花さんの事件では、「死ね」「消えろ」など、ひどい時には1日100件近い誹謗中傷の書き込みがあったという。

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亡くなった木村花さん

 ツイッター社は同社の判断で個々の投稿を削除したり、誹謗中傷をおこなったアカウントを一方的に凍結することが可能だ。だが、木村さんのケースにおいては、多くの投稿が放置されたままだった。最悪の事態になる前に、何らかの措置を取ることができたのではないのか。

 実際に「死ね」という単語で検索をかけてみると、他にも、実に多くのツイートがヒットする。例えば、政府を批判する投稿に「#安倍死ね」というハッシュタグがつけられていることもある。

 人を傷つけかねない特定の単語について、ツイッター社はどのように検知・対応しているのか。

「AIを使った自動のモニタリング、人的リソースでのモニタリングの両方を行なっています。人的リソースについて説明すると、24時間いつでも対応できるように、日本の文化、日本語と文脈を理解するスタッフを、世界中にグローバルチームとして配置している形です」

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「お前死ねよ」の意味

 そのような体制を敷いているのに、なぜ木村花さんの悲劇は防げなかったのだろうか。

「やはり、言葉のニュアンスについては難しい部分があります。『お前死ねよ』というツイートも、友達同士なら意味が変わってくる。険悪な間柄での『お前を殺したい』と、気心が知れた友人間の『ふざけんな(笑)』、どちらの表現なのか。その前後のやりとりや、2人の関係性まで見て判断することもありますし、専門家を入れて判断をお願いするケースもある。24時間休まずにチェックしていますが、利用者もどんどん増えているので、残念ながら即座に対応できていないこともあります」

凍結はなぜ起こる?

 一方で、一部のユーザーからは「誹謗中傷をしていないのに、アカウントが凍結された」といった声も聞かれる。ツイッター社の対応に一貫性が見えず、フラストレーションが生まれているのだ。

「機械も言葉の検知が100%正確ではないということは、我々も現在学んでいる最中です。これがなかなか難しいところなのですが、日本ではツイッターの利用方法が非常に複雑化していて、機械がなかなかそこに追いつけていない。そのため、なんの落ち度もない方が間違ってアカウントを凍結されたというケースもあると認識はしています。

 もちろん申告していただければ、グローバルチームが検証の上、こちらの間違いだと分かれば凍結を解除させていただいています。大変申し訳ないのが、個別での人的な確認作業となるため、即座に対応できているとは限らないということです」

 ツイッター社の言い分としては、誹謗中傷をするようなツイートがあった場合には、運営側に通告がないと動きにくいという。

「基本的にアカウントの凍結については、まずツイートレベルでポリシーやルールに違反しているのかを見ます。たいていは、利用者からの報告や通報、テクノロジーによって当該ツイートを精査します。そこから、どうやって凍結の是非について判断をおこなうのか。そこはグローバルでのポリシーに基づいて運営をしています」

 もっとも、そのポリシー自体が、ユーザーに広く周知されていない可能性は高い。実際にツイッター社のサイトを見ると様々なルールとポリシーの説明が並んでいるが、具体例は提示されておらず、漠然としていて分かりにくい。

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source : 文藝春秋 2020年8月号

genre : ニュース 社会 企業