「それでもワクチンが最強の武器だ」

コロナ猛威 世界は警告する

サルマン・ザルカ イスラエル政府コロナ対策最高責任者
ニュース 国際 医療
新たな変異株の「第5波」は必ずやってくる。医療のイノベーションで危機に備えよ(取材・構成=米山伸郎)
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ザルカ氏(左)と米山氏

イスラエルの第4波から日本が学ぶべき教訓は?

 イスラエルでは「マゲン・イスラエル」(Magen Israel)という国家プロジェクトが進行中である。ヘブライ語で「国家の防御」との意味が込められたこの試みにより、同国では昨年末から世界に先駆けてワクチン接種を速やかに展開した。その結果、今年春には劇的に陽性者数が低下し、死者ゼロの日が続いていた。イスラエルはコロナ克服のモデル国家と称賛された。

 ところが今、イスラエルは第4波に見舞われている。日本はイスラエルからどんな教訓を学ぶべきなのか?「マゲン・イスラエル」の最高責任者であるザルカ博士に聞いた。

 我々は迅速なワクチン接種を進めた結果、2~3か月前には「コロナとの戦いに勝利した」と宣言しました。コロナ前の日常に戻り始め、マスクを放り投げて祝いました。

 ところが、デルタ株の登場で、すべてが逆戻りしてしまったのです。いまやウイルスは社会のあちこちに存在し、1日8000人台の感染者を出しています(注・8月下旬時点)。日常生活では、再び距離感を求められるようになりました。

 デルタ株の恐ろしさは、ワクチン接種を2回受けた人でも感染し、中には重症化する人もいるということです。ワクチン2回接種によって免疫力をつけた人でも、その抗体持続レベルが過去の他の疫病と比べても早く低下しています。とくに60歳以上の高齢者のリスクが高まっていることから、疫学者や免疫学者など専門家が色々と検討した結果、米国のFDAはまだ承認していなかったが、イスラエルとしては3回目接種(ブースターショット)が必要であるとの結論に至ったのです。

 イスラエルは世界に先駆けて新型コロナのワクチンを接種した国です。ただ、ブースターショットの前例はなく、副反応のリスクについても未知数でした。それでも感染状況が急拡大していることから、60歳以上の高齢者より3回目のワクチン接種を行うこととしたのです。その後、1週間ずつ年代を50歳代、40歳代、30歳代と下げ、来週(8月29日の週)からは12歳以上のすべての年代に3回目接種を行う予定です。

 すでに180万人以上に3回目接種を実施済みですが、今のところ、これといって大きな副反応は報告されていません。今後も副反応の状況を見つつ、感染防止効果と重篤化予防効果を確実にするために、3回目接種を進めていきます。

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「第5波」は不可避である

 ただ、これでコロナを克服できるとは考えていません。今後、もちろん我々は最終的に「ウイルスへの勝利」を目指しはするものの、将来的には第5波が来ることは間違いないと覚悟しています。つまり今後も我々はウイルスと隣り合って暮らしていくことになります。家庭でも職場でも、如何なるコミュニティにおいてもウイルスの存在を想定した生活となるでしょう。

 では、デルタ株の感染予防策は何か。第1に、過去1年半で世界中が行動様式を変えましたが、今後も人と人との距離を意識的に取り続けることです。当分の間はマスクと決別することはできないでしょう。常時マスクを装着することはなくとも、いつもマスクを持ち歩いて必要な時に装着するという生活は続きます。

 第2に、ワクチン接種を継続して行うことです。ワクチンはコロナに対する最も効果的な武器と言えます。実際、イスラエルはワクチンのお陰で数か月前に勝利宣言をし、一旦は日常を取り戻すことが出来た。ところがデルタ株の登場でまた感染が始まり、再度ワクチン接種で対抗しているわけです。もちろん、ロックダウンといった他の闘い方もありますが、今後登場するであろう新たな変異株に対しても、引き続きワクチン接種が最良の闘い方になると考えます。ファイザーやモデルナが検討を進めているように、今後は5歳から12歳までの子供にも接種が必要となるでしょう。

 ブースターショットの頻度を1年ごとにするのか、半年か、はたまた数か月ごとかといった判断、また新たな変異株に対応したmRNAワクチンについては、デルタ株や今後登場する変異株の特徴をにらみながら適応していく必要があると考えます。

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新型コロナウイルス

中国の情報が共有されず

 ――新型コロナは過去のパンデミックと何が違うのでしょうか?

 私は医師であると同時に疫学者として政府の医療組織の責任者を務め、インフルエンザなど他の疫病への準備を行ってきました。その観点から見ると、新型コロナが他の疫病と決定的に違うのは、世界中に非常に早く、しかも静かに広がったところにあります。

 もう1つ重要な点は、新型コロナウイルスは中国で発生しましたが、発生段階でのデータが世界各国に共有されなかったことです。中国の陽性者はウイルス発生後の2019年11月から20年1月までの最初の2か月間で世界中に移動しており、世界各国がパンデミックに気づいた段階では、すでに膨大な数の人々に感染が広まっていたのです。

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source : 文藝春秋 2021年10月号

genre : ニュース 国際 医療