日本を震撼させた平成の凶悪事件。事件後に流れた歳月は犯人・遺族の心境にどのような変化をもたらすのか。ノンフィクションライター、小野一光氏が現場を歩く。今回は「平成18年 秋田児童連続殺人事件」篇の第4回(全4回。第1回、第2回、第3回から読む)。
「最近はさあ、連絡もねえから、家族がまったくどうしてるかわがんねえのよ。鈴香の状況もわがんねえ……」
2006年4月から5月にかけて、秋田県藤里町で小学4年生のAちゃん(当時9)と、近隣に住む小学1年生のBくん(当時7)が、Aちゃんの母でした鈴香は現在、福島刑務支所に服役中である。
冒頭の発言は、鈴香の父親が経営する会社で働いていたZ氏によるもの。彼は鈴香が幼い頃から実家に出入りしており、秋田地裁で一審の裁判が始まってからは、秋田刑務所内の拘置場(以下、拘置所)にいた鈴香と面会するなどしていた。
鈴香がAちゃんと住んでいた藤里町の家が更地となっていることは、すでに(第1回で)記したが、彼女が取り囲む報道陣に対して声を荒げていた二ツ井町の実家も、いまはもうなくなっている。Z氏は言う。
「あそこ(鈴香の実家)は事件のときから、高速道路になることが決まってたんだわ。だから(鈴香の)母ちゃんはもともとの実家(鈴香の母の実家)さ帰って、弟は能代(市中心部)の方さ行ったんじゃねえべかなあ」
抗うつ薬や睡眠導入剤を大量に飲んでいた
報道関係者が実家を取り囲んでいたとき、Z氏はこれでは外に買い物に行けないだろうからと、食料品などを定期的に差し入れていた。そこで顔を合わせた逮捕前の鈴香は、顔見知りのZ氏に対しても、みずからの犯行を認めようとはしなかったという。
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source : 文藝春秋