音程を気にすると役に近づかない。役の心から入っていくのだ
岳父・二代目中村吉右衛門が昨年の2021年11月に亡くなって、早いもので1年が経ちました。
この1年、『盛綱陣屋(もりつなじんや)』の佐々木盛綱、『藤戸(ふじと)』の母藤波と藤戸の悪龍、『義経千本桜』の新中納言知盛と務めさせていただきました。けれどもやはり岳父にも見てもらって、厳しい言葉をいただきたかった――と、思います。岳父の役を演じるにあたっては「岳父だったらどうするかな」「どうしていたかな」と、つねに考えていましたし、どうしても指導していただきたかったと思ってしまいます。
岳父の不在によって、その大きさを痛感する1年でした。
私は時代劇が大好きで、岳父が長谷川平蔵を演じた『鬼平犯科帳』は、もちろんずっと観ていました。その作品の最終回に、光栄にも出演させていただいたのは一生忘れられない記憶になっています。
鬼平と対決する剣豪・石動虎太郎(いするぎとらたろう)というのが私の役で、激しい殺陣の場面もありました。岳父による平蔵の、27年という長い歴史の中で非常に重い役をいただいたので、思いきって剣を交えたことを覚えております。
ずっと自分も観てきた「江戸の正義を守る鬼平」が目の前に現れるわけですから、歌舞伎とは違った緊張感がありました。正義を代表する長谷川平蔵と、悪の虎太郎が対峙する機会をいただけたのは、本当に感無量な出来事でした。
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source : 文藝春秋 2023年1月号