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ストレートで飾らない言葉が心に残った

「チョー気持ちいい」

「何も言えねぇ」

 ホント、気持ちいい~!と、その瞬間、思った。 日本人選手が、北島が勝った! 平成16年(2004年)のアテネ五輪水泳男子平泳ぎ100メートル決勝、北島康介選手が優勝したのだ。

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平成16年(2004年)のアテネ五輪水泳男子平泳ぎ100メートル決勝にて優勝を決めた、北島康介 ©JMPA

 あのシーンは何度見ても気持ちがいい。プールサイドの優勝インタビューで、北島選手は肩で息をしながら、泣きそうになるのをこらえるように目をこすった。見ているこちらも感無量。勝利の感想は「チョー気持ちいい」だが、気持ちがよかったのは彼だけでない。テレビ画面にかじりつき決勝を見ていたこちらもだ。ストレートで飾らない表現が彼らしい。「もう、鳥肌もんですね」、勝利を噛みしめて語った彼の言葉そのまま、鳥肌もんのレースだった。

 平成20年(2008年)の北京五輪で、北島選手は再び金メダルを取った。勝ったとわかった瞬間、拳を突きあげ、何度も雄たけびを上げた。だが優勝インタビューではタオルに顔をうずめ、ほとんど涙声。その思いを語った「何も言えねぇ」という一言は、見ている側の感動や感情をも端的に代弁していた。だからこそ印象的だったのだ。

共感が感動を呼ぶ言葉を生む

 同じように観客の気持ちを代弁したからこそ、印象に残ったシーンがある。平成13年(2001年)5月の大相撲夏場所で優勝した横綱・貴乃花に、当時首相だった小泉純一郎氏が大きくて重そうな内閣総理大臣杯を抱え手渡したシーンだ。

貴乃花に優勝杯を渡す、小泉純一郎元首相 ©時事通信社

「痛みに耐えてよく頑張った。感動した」

 ケガを押して出場し、優勝決定戦で横綱・武蔵丸を下して優勝した貴乃花に、小泉首相はそう声をかけた。共感を生む一言があるからこそ、そのシーンはより感動的になる。