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「戦犯旗を付けて歩くとはどういうつもりか?」

〈留学中にもっとも印象深かった出来事が自衛艦旗に関する件でした。韓国では大規模な演習期間中、全部隊で迷彩服を着ることとなっており、合同軍事大の学生及び留学生も、その対象となります。同期間中、韓国陸軍の学生から「当大学内で戦犯旗を付けて歩くとはどういうつもりか?」と言われたことがありました。それは海自戦闘服の左肩に付いている自衛艦旗へのクレームでした。騒ぎを聞いた韓国海軍学生が駆けつけ「これは日本海上自衛隊の海軍旗だ! そして(自衛官の名前)は俺たちの仲間だ!」と陸軍学生を説得し、その場は収まりましたが、その後、私の予想を超える終わりを迎えることとなりました。クレームがあったその日のうちに海軍大学校長、教官、学生により、自衛艦旗及び海軍旗について、陸、空軍全学生に対する教育が行われたのです。その後、同様のトラブルは一切なくなりました。同じ海を活躍の場とする武人たちのスマートな対応に心動かされました〉

 この記述から、少なくとも合同軍事大学上層部の2015年当時の認識としては、自衛艦旗について問題視していなかったことが分かるとともに、一学生(中堅士官)レベルでは、戦犯旗認識が浸透していたことが窺え、木村教授の言う「『下から』の世論」が韓国軍内でも波風を立てていたことがわかる。

韓国の海軍旗 ©iStock.com

 海上自衛隊では20年以上前から幹部自衛官を韓国に留学させており、陸空でもそれぞれ派遣を行っている。そのため、自衛隊関連の部内誌や雑誌から自衛官の韓国留学記を探したが、韓国軍人から自衛艦旗を戦犯旗として非難されたのはこの体験記のみで、それ以前に韓国合同軍事大学やその前身の各大学で非難を受けた記述は確認できなかった。

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 留学記を書いた幹部自衛官は、その後の校長を巻き込んだ合同軍事大学の対応に感銘を受けたようだが、陸・空の全学生を集めて教育を行う事態にまで発展したのは、韓国軍内でも中堅士官に戦犯旗認識が広まっていることに、「上」としての危機感が大学校側にあったように思える。

日本も韓国の重要度を下げる

 これまで見てきた日韓の軍事交流は、公式行事のレベルでは1990年代から2000年代のそれと2010年代以降の韓国側の対応に大きく変化が見られるし、個人のレベルにおいても軍内の変化が窺える。変化の時期は、ちょうど韓国で戦犯旗としてクローズアップされた頃に一致するが、これが直接の原因なのか、対日感情悪化の一事象に過ぎないのかはここでは判断しない。

 日本側も2019年度版の防衛白書で、他国との安全保障協力を示した章で、韓国の記載順を下げており、安全保障上の韓国の重要度を下げたと見られている。実際、防衛当局者のハイレベル交流実績では、最近はオーストラリアやインドの方が韓国より活発である。

 20年以上かけ、上層部から現場レベルまで育まれてきた日韓軍事協力が、ここにきて重大な危機を迎えていることになる。そのひとつの節目となるGSOMIA失効まで残り1ヶ月。それまでに改善の兆しは見られるだろうか。