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インバウンド「5兆円」もピンチ

 また、インバウンド需要も大きく落ち込むと予想される。SARSが流行した2003年春から夏にかけては中国からの旅客者数が一時的にそれまでの2割程度まで減少したが、2003年には45万人だった中国からの旅客者数は2019年には959万と20倍を超えて増加し、全訪日旅客者の約30%を占めるに至っており、中国からの旅客者数の減少が日本景気に及ぼす影響は2003年の比ではないだろう。さらに直近では日本に年間130万人の旅客者を送り出すタイは日本への渡航延期勧告を出しており、米国も高齢者や疾病のある人に対し、渡航の中止、延期を勧めている。日本への渡航延期勧告が世界的に広がると中国だけでなく訪日旅客者全体に影響が及び、2019年に4.9兆円に達した旅行収支受取額の多くが今後数ヵ月にわたって消失するおそれがある。

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日本経済の最悪シナリオは……

 日本国内でも感染が拡大しており、政府の「不要不急の外出は控えて」との呼びかけを受けて全国で会議やイベントの中止、出張、旅行の取りやめが相次いでいる。北海道では外出自粛が要請された。公共工事の一時中止も実施されている。さらに、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた見解」で、「対面で人と人との距離が近い接触(互いに手を伸ばしたら届く距離)が会話などで一定時間以上続き、多くの人々との間で交わされるような環境に行くことをできる限り回避して下さい」と要請している。東日本大震災が発生した2011年春にも宴会や余暇活動自粛の動きが広がったが、政府の要請がある今回はより影響が大きくなる可能性もある。実質GDP成長率は2019年10‐12月期に続き2020年1‐3月期も前期比で大幅なマイナスに陥り、2期連続のマイナス成長で景気後退となる可能性が高い。最悪のケースでは、WHOによってパンデミックが宣言され、東京オリンピックの延期や規模縮小、無観客試合などの措置がなされる可能性も想定される。今後も日本の景気のダウンサイドリスクは大きいと見ざるを得ない。

 新型肺炎の感染者は各地に拡大しており、世界経済をけん引してきたアメリカでも、「感染が広がるかどうかではなく、いつ広がるかという問題」(アメリカ疾病予防管理センター)となっている。すでにカリフォルニア州では経路不明の感染者が確認され、ワシントン州を中心に複数の死者も出ている。中国に続いて米国でも新型肺炎拡大に伴って景気が大きく落ち込むようなことがあれば、日本経済は内需、外需の主要ドライバーを喪失することになる。また、3月3日の米民主党大統領候補予備選挙の一斉投票(スーパーチューズデー)では「メディケアフォーオール(公的国民皆保険)」を掲げ社会民主主義を標榜するサンダース氏が大票田のカリフォルニア州をはじめとして多くの票を獲得した。これまで感染が拡大した諸国では政権支持率が低下する傾向が見られるが、米大統領選挙に向けた活動が佳境に入る中で新型肺炎が拡大した場合、トランプ政権への批判が高まるとともに国民皆保険への支持が集まり、サンダース氏へのさらなる追い風となりうる。大幅な法人増税と金融規制の強化を掲げるサンダース大統領の誕生は株式市場にとって逆風となる可能性は想定しておく必要があろう。日本株は直近で大きく下落しているが、今後も悪材料は多数ある。株式市場は当面神経質な展開を続けざるを得ないだろう。

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3月3日の「スーパーチューズデー」。代議員数が多いカリフォルニア州を制したバーニー・サンダース ©AFLO

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。