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わたしの「神回」

「黒子のバスケ」に萌え狂った女が、浪費できなかったコミケの話

「黒子のバスケ」に萌え狂った女が、浪費できなかったコミケの話

「コミックマーケット98」は史上初の中止

2020/05/02
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 物心ついた頃にはオタクだった私が初めてコミケに参加したのは、中学2年生の夏、2003年8月の「コミックマーケット64」だ。当時私は、「かわいい女の子」「かわいいもの」に夢中になっており、登下校の最中には、大ヒットしていた女子校百合小説「マリア様がみてる」シリーズを読みふけっていた。そうしたら、美少女イラストレーター好きの同級生(本人も絵がうまい)が「一緒に行かない?」と誘ってくれたのだ。

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 参戦したのは「3日目」。慣例上、男性向けジャンルが多く固められる日程で、夏なのもあって、会場は成人男性の汗のにおいで充満していた(まあ、私たちも汗くさかったと思うが……)。人間の壁が前後左右にできあがり、身長150cmほどの女子中学生たちは窒息死してしまうのではないかと怯えたくらいだ。初参加の小娘であろうと、自分の身は自分で守るしかない。もみくちゃにされながら、なかば放心しつつ目標エリアに到達した。そこから個別の待機列でさらに1時間並んだりもしたが、無事「創作(少女)」ジャンルの、かわいい女の子満載の同人誌十数冊を買うことができた。

足を運ばずとも手に入れられるけれど、それでも

 ぶっちゃけ、当時からかなりの数の同人サークルが、委託通販や自家通販を行なっていたから、創作(少女)に関して言えば、よほど人気作家の新刊でなければ、イベントに足を運ばずとも手に入れることができた。ビッグサイトまでの交通費は結構かかるので、猛暑や大雨、雪のなか何時間も並び続けるコストを考えたら、通販のほうが安いくらいだ。

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 それでも、カタログで行きたいサークルに印をつけていく時間、待ちに待った新刊を真っ先に手に入れられる興奮、憧れの作家さんと直接話せるかもしれない喜び、偶然通りがかったエリアでの未知の作家さんとの出会い、好きなものを手に取るために集まっている人たちとの一体感(汗くさいけど……)などなどに、何にも代えがたい高揚感があった。その後、創作(少女)からは離れたものの、西尾維新の戯言シリーズ、京極夏彦の京極堂シリーズ、乙女ゲーム「金色のコルダ」、アニメ「機動戦士ガンダム00」、商業ボーイズラブ漫画と、どんな年も必ずなにがしかのコンテンツにハマり、インターネットの海を巡っていた私は、半年ごとの夏コミ・冬コミに必ず足を運ぶタイプのオタクとなっていた。大学受験の直前の冬コミは若干迷ったが、「どうせ今日は勉強に身が入らないし」と現地に向かった。