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わたしの「神回」

2020/05/02

たどりついた東1ホールの右半分はがらんどう

 だから、その冬はさすがに家にいようと思っていたのだが……、気がつけば12月30日、私はいつものように東京ビッグサイトに向かっていた。いつものようにりんかい線に乗り、いつものように国際展示場駅で降り、いつものように待機列に並んだ。来場者の数はほとんど変わっていないように見えた。調べたところ、3日間の来場者数は55万人で、その時点での過去最高だったとのことだ。

 もしかしたら場内では、何事もなかったかのように黒バスサークルが出展をしているのではないか……と一瞬思ったが、当然そんなことはなかった。たどりついた東1ホールの右半分はがらんどうで、配置された無数の長机の上に、本来なら使われるはずだったパイプ椅子たちがひっそりと折りたたまれていた。

筆者撮影

 誰が死んだわけでもなかったし、私が危害を加えられたわけでもなく、というかそんなことがないように参加自粛の処置がとられた次第だが、空虚な空間を見ているだけで、自分の中の何かがもぎとられたかのような痛みがあった。該当エリアには完全に出展者がいなかったのではなく、同じスペースを使って、別ジャンルの同人誌を出しているサークルもわずかながらあった。応援の気持ちで、知らないサークルのコピー本を一冊だけ買って帰ることにした。たしかまだ連載を開始したばかりの「ハイキュー!!」の同人誌だった。東1ホールには、私と同じ目的と思しき人がちらほらいて、しばらく立ち止まって、去っていった。黙祷と違い、とにかくその空間を焼き付けようと、みんな静かに目を動かしていた。

連載が終わっても黒バス人気は消えなかった

 その後も、イベントや関連企業への脅迫事件、関連商品の販売取りやめなどが続いた。犯人が逮捕されたのは2013年12月。身の危険にさらされながら原作終盤の山場を描き続けた藤巻先生の心中を考えると、頭が下がる思いしかない。

2013年12月、「黒子のバスケ」脅迫事件で逮捕された容疑者(当時)が取り調べを受けた警視庁麹町署 ©時事通信社

 原作連載は2014年9月に終わりを迎えたが、その後も番外編連載やアニメ放映は続き、1年以上の騒動の中でも、黒バスの人気は消えなかった。その後のコミケでも黒バスのスペースはたくさんあったり、オンリーイベントも開催された。それどころか、現在に至るまで同人誌を作り続けている人たちもいる。

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