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わたしの「神回」

2020/05/02

あのコミケが「神回」になってほしかった

 しかしそれでも、あの「黒バスオタクが参加できなかったコミケ」の記憶は、リアルタイムでオタクをやっていた全ての人の脳裏に残っていると思う。あのときのコミケは確実に「欠けている」もので、その喪失感は確実に、「萌えが充足されなくていやだ」という感情以上のものだった。もちろん、黒バスという作品を好きだから原作にも関連コンテンツにもお金を払っていたのだけれど、騒動があったからこそ、何かを推す/楽しむことは、それ自体、ある種の覚悟の表明でもあるのだということを、肌感覚をもって知ったなという気もする。

筆者撮影

 正直、本当は、そんな覚悟なんてしないで済むに越したことはない。何も考えないで誰でも気軽に何かを推せるほうがハッピーだし、脅迫事件なんてなくて、あの2012年の冬コミが完全な形で開催されて、あの冬に出されるはずだった最高の同人誌を買いまくって、「黄瀬くんマジ萌える~」だけでコンテンツを堪能したかった。あのコミケがそういう「神回」になってほしかった。でもそうはならなかったので、そうではないオタク人生を送っている。

 あれから8年。気がつけば、自分でも同人誌を出す側になっていた。二次創作同人誌も出したし、劇団雌猫が頒布する「悪友」シリーズは、いつもコミケにあわせて制作をしている。同人誌を作るのは楽しいが、イベントにあわせ「締め切り」という概念が生まれ、あのお祭りの一員になりたいという気持ちを持つことで、忙しい日々の合間にどうにか時間を作れるんだよなあ……と、つくづく身にしみている。

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