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 帰省者は、戻るのを待ち望む人がいるから帰って来る。そこで4月29日、県民向けに「会いたいからこそ、今は『会わない』ようにしよう。それが収束への早道だ」と訴える全面広告を地元紙に掲載した。

地域ごとの方言で「帰省自粛」を呼びかけ

 担当した広聴広報課の職員は「ウイルスの流行以前から、出身者に『ぜひ帰って来てください』と呼び掛けてきた県です。『帰ってくるな』とだけは言いたくありませんでした。そこで、方言を使ったら否定的なニュアンスが和らぐのではないかと考えました」と話す。

 島根県は東部の出雲地域と、西部の石見(いわみ)地域に分けられ、それぞれ言葉が違う。このため出雲地域用は「早く会いたいけん、今は帰らんでいいけんね。」、石見地域用は「早く会いたいけぇ、今は帰らんでいいけぇね。」と大書した。さらに全県共通のメッセージとして「ここ島根で生まれたそのつながりは、距離に負けるほど弱くはないと思うのです。近いうちに、いつも通り会える日が必ず来ます」と記した。そして県の公式Facebookにも載せた。

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島根県が発表したメッセージ。左が出雲地域用、右が石見地域用(島根県公式Facebookページより)

 大きな反響があった。Facebookには「とても素敵なメッセージで心に響きました。この新聞をきっかけに島根にいる親と会話したり、普段のGWでは電話をすることのない島根の祖母とも電話をし、改めて地元が好きになりました」とコメントした人もいた。「いいね」は5月1日までに1200件を超えた。

「今だからこそ丁寧に発信しないといけない」

「現在、飛騨はお休み中です」。岐阜県の國島芳明・高山市長、都竹(つづく)淳也・飛騨市長、成原茂・白川村長の3人は4月30日、こんなメッセージを共同で発表し、3人で語りかけるYouTube動画も流した。

 動画では「観光地、お店、自然豊かな場所すらも、新型コロナウイルスから地域を守るために、ほぼお休みしております」「この新型コロナウイルスが収束した折には、地域を挙げて皆様を歓迎させていただきます。そして、飛騨の魅力を存分に楽しんでいただけるよう、精一杯のおもてなしをさせていただきます。それまで、今しばらくお待ちいただきますようお願いいたします」などとリレーで述べ、最後に「大変辛く、また失礼なお願いかとは存じますが、ご理解ご協力をいただければ幸いです」と深々を頭を下げた。

【動画】高山市・飛騨市・白川村の3首長によるメッセージ
 

 これほど丁寧に「お断り」されたら、誰しも悪い気はしないだろう。むしろ、支援したくなるかもしれない。それにしても「お休み中」とは、しゃれた言い方だ。

 高山市の清水雅博・秘書課長は「文案は3首長が集まって練り、『お休み中』は都竹飛騨市長が発案しました。外出自粛が長引いて、社会の不安がどんどん大きくなっています。他を排除するような風潮も広まっています。こうした時の言葉は、発し方一つで敵対心を生みかねません。今だからこそ丁寧に発信しないといけないというのが3人の考えでした。飛騨は新幹線も通っていなければ、飛行場もない不便な所です。にもかかわらず、遠方から多くの人が観光に来てくれます。『お休み』という柔らかい言葉には、私達の感謝の気持ちが込められています」と解説する。