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桜前夜祭で3度目は消えた?安倍前首相の本質はSNS駆使の“感動政治”だ

安倍晋三論|プチ鹿島

2020/12/25

source : 文藝春秋 digital

genre : ニュース, 社会, 政治

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若き安倍晋三氏が「徹底的に論破しました」

 そして私は次の著作で興味深い一致を見つけた。政治学者・中島岳志の『自民党 価値とリスクのマトリクス』(スタンド・ブックス2019年)である。中島は政治家の過去の文章をじっくり読むことで今につながる姿をあぶりだしている。

 安倍晋三の項を読んでいて「あっ!」と思う箇所があった。

 安倍が2004年に岡崎久彦と共著で出した『この国を守る決意』(扶桑社)について。ここで安倍は、拉致問題をめぐっては「情」よりも核問題に対処する「知」を優先すべきだという議論が自民党内から出てきたことに対し、

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「これはおかしいと思って、私はあらゆるテレビや講演を通じて、また国会の答弁などで徹底的に論破しました」

©文藝春秋

 ああああああ、若き安倍晋三が「徹底的に論破しました」と誇らしげに言ってる!

《ここで「論破」という言葉を使っているのが、安倍晋三という政治家の特徴をよく表していると言えるでしょう。相手の見解に耳を傾けながら丁寧に合意形成を進めるのではなく、自らの正しさに基づいて「論破」することに価値を見出しているというのがわかります。しかも、その相手は同じ自民党のメンバーです。》(『自民党 価値とリスクのマトリクス』)

 歴史修正主義の流れは90年代からはじまるという指摘(倉橋耕平)と、安倍が若手議員だった頃に「論破」という言葉を得意げに使っていたという指摘(中島岳志)。なんか、繋がってきた。

フェイスブックから存在感を取り戻していった安倍氏

 これらは言ってみれば「ネットで元気な人」という表現もできないか。私はこの「ネットで元気な人」で安倍に注目した過去がある。以下、2013年に書いた視点をまとめてみる。

《安倍氏はフェイスブックでは、なんかいつもとキャラが違うのだ。2012年秋に『みのもんたの朝ズバッ!』(TBS)でNHKアナの痴漢逮捕事件を報じた時に、誤って安倍氏の顔を映してしまったことがあった。これに対し安倍氏はフェイスブックで怒りを露わにし、その結果、番組側は謝罪した。安倍氏のフェイスブックを見た人たちからの抗議も多かったようだ。「ネガティブキャンペーン」「悪質なサブリミナル効果を使った世論操作」「私は皆さんと共に戦います」……。フェイスブックに投稿された安倍氏の文言を読んでみると、その戦闘的なツッコミモードは「ネットで元気な人」の言いっぷりにそっくりなことがわかる。》(『教養としてのプロレス』収録)

 さて、この時点の2012年秋の安倍は自民党総裁に奇跡的に返り咲く直前であった。奇跡的と書いたのは2007年に第一次政権を1年で辞任してからはよほどのことが無い限り再登板は……という空気だったからだ。

2019年4月、新元号「令和」に関する談話を発表した安倍晋三氏 ©JMPA

 しかし安倍はネット、とくにフェイスブックで元気な活動をするようになり存在感を取り戻していった。これが第二次政権への復活の手がかりの一つと見立てるなら安倍とネットは重要な関係だ。

 その後、7年8カ月を超えた第二次政権を大いに助太刀したのもネット、SNSだった。

 私はそれを「感動政治」と定義したい。

(敬称略)

 プチ鹿島さんが考えるSNSを駆使した「感動政治」の全体像、そしてその“怖さ”とは。この記事の続きは、「文藝春秋digital」で公開中です。

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