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──使わない、というわけですね。それで最近は、定跡や評価関数を作る方向に人が集まっているわけですか。

磯崎:
 強くするポイントとしては、定跡と、評価関数と、探索部分。大きい枠組みでいくとこうです。

──最強の評価関数である水匠、公開されたものより強いやねうら王、そして定跡はテラショック定跡。これは強くなって当たり前じゃないですか!

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磯崎:
 テラショック定跡がね…………これが、強くなくて…………。

──ええ!?

磯崎:
 コンセプトというか、アイデア自体は悪くないんです。けど…………今の将棋ソフトって、序盤、弱いんです。

──え!? 強いですよ?

磯崎:
 何と比較するかという話になってしまうんですけど…………序盤で100点の差が付いても、だいたいどっかで逆転したりどっかで反省【※】したりするんです。特にNNUE評価関数は、序盤の評価値にそこまで信頼性がないので……。

 それでゲームツリーを作って、『一番よい』とされてる局面を目指して進めて行っても……それが実はよくなかったりするんです。

※ソフトが劣勢を認め、評価値が急変すること。

──前回お話をうかがった時も、テラショック定跡にはあまり自信がなさそうな感じでしたもんね……まだまだ穴があると。

磯崎:
 事前に、他の定跡を使ったものと対局させてみたんです。そしたら、他の定跡使ったほうがマシだなというくらいの話だったので……。

──何が問題だったんです?

磯崎:
 一言で言うと、今のソフトの序盤の評価値は信用できないと。

──いやでも、人間からすると、コンピューターの評価値って絶対的なものになりつつあると思うんですよ。永瀬王座がインタビューで「昔は人が思いつかない手を指す人間が天才でしたが、いまは将棋ソフトが答えを出すので、その最善手を指し続けられる、それに近いパフォーマンスを続けられる人間が天才」って言い切っちゃってて……。(『将棋世界』2021年1月号)

磯崎:
 定跡局面に関して言うと、5手先の100点の局面と10手先の200点の局面を比較しないといけないんです。単純に「200点だからこっちがいい!」と言ってしまっていいのかという話です。