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なぜ豊島将之は藤井聡太に6連勝したのか?【流れゆく水のように 豊島将之竜王・叡王インタビュー 第1章】

source : 提携メディア

genre : ライフ, 娯楽

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「で……それでも『そんなに成果が上がっていないな』と思っていて」

「同世代の棋士がタイトル取ったりしていたので、『もうちょっと思い切って踏み込んでいかないといけないのかな?』と思って……」

「棋聖戦の頃は、ソフトが一番強いのは、中盤の、ねじり合いの部分だと思ったので。私は」

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「実際、YSSとかと指しても、序盤とか終盤で勝負ができるなと思っていたので。中盤が長くなるとキツくなるなと思っていたんですよ」

「だからやっぱり中盤が強いと思っていて」

「だからそこを自分に取り入れたいと思って。だから、なんか……棋聖戦の将棋も、矢倉が多かったんですけど、その頃は矢倉ばっかりソフトと指していて」

 ……ん?
 豊島の発言に引っかかるものを感じた。
 指す? 矢倉ばかり? ソフトと?
 まさか……。

「矢倉とかそういう、中盤がねじり合いになるような、そういう将棋をやって」

「苦しいんですけど、なんていうか……どれくらいまで耐えられるかというか。中盤、どのくらいまで互角で耐えられるかということをやっていて……」

「まあ、あんまり……ほとんど勝てないですし……」

──た、対戦していたということなんですか!?

「ああ、対局していました」

──矢倉にして?

「矢倉にして。局面は、途中まで自分で作って」

──指定局面で?

指定局面というか、互角くらいの局面にして。作って、そこから指していましたね。ひたすら

──…………。

 中盤が強くなりたい。
 だからソフトと中盤から指す。ソフトが最も力を出せる、矢倉で。
 狂気を感じた。
『若返りたいから、赤ん坊を食う』くらい短絡的な行動だと思った。それができれば、みんなやってる。電王戦を見れば、できないことなんて誰でもわかる。矢倉でソフトに勝った人類など、一人もいない。

 豊島が棋聖戦で羽生に挑戦したのは、2015年6月。
 その3ヶ月前には電王戦FINALが行われている。
 豊島は出場しなかったが、前年に行われた第3回電王戦で人類唯一の白星となった豊島の将棋を分析し、人間の勝ちパターンを磨いたことで、プロ棋士の側が勝ち越すことに成功している。
 電王戦でコンピューターと戦った他の棋士たちは、いかに人間の持ち味を引き出し、ソフトの長所を消すかを考えていた。
 ソフト開発者側もまた、いかに人類に序盤の作戦を狙い撃ちされないかを考え、指し手を散らすプログラムを組み込んだりした。