豊島将之と藤井聡太
──豊島先生がA級に上がったこの年は藤井フィーバーが起こりつつあるタイミングで、熱局プレイバックのトップ10は藤井先生の将棋ばかり。豊島先生の将棋は入っていませんでした。しかし藤井先生は、豊島先生の将棋によく投票していて……この将棋の他にも、三浦先生とのA級順位戦に『二転三転の白熱の終盤戦。リアルタイムで観ていて、とてもおもしろい将棋だった』とコメントを寄せています。
「あ……そうでしたね」
──愛されていますよね?
「あははは!」
豊島は笑うが、あながち冗談ともいえないと思う。
藤井はインタビューなどで目標とする棋士を尋ねられることが多い。そのたびに「いない」と答えている。
それは自身の発言が世間からどう受け止められるかをよく理解しているからだろう。
だが、丹念に藤井の発言を追えば、誰の将棋を最も意識しているかは、伝わってくる。
『将棋世界』2021年6月号に掲載された2020年度の熱局プレイバックでもやはり藤井の将棋が10局中5局を占めた。
では当の藤井がどの将棋に票を投じたかといえば……。
第1位 叡王戦第4局 永瀬拓矢vs豊島将之
第2位 名人戦第3局 豊島将之vs渡辺明
第3位 A級順位戦 豊島将之vs羽生善治
何と、1位から3位までを豊島の将棋が独占している。
もはや藤井は、豊島への気持ちを隠そうともしていない。いや、もともと隠していたわけではないのだろうが……。
では豊島は、藤井のことをどう思っているのだろう?
──藤井先生のこういったコメントなどを丹念に拾っていくと、やはり豊島先生を意識しておられると感じます。ご自身ではそういうの、感じますか?
「いやー……どうなんでしょう?」
──豊島先生と対局されるときに、気負っているような様子などは見えますか?
「別にそういうことはないですかね」
──対戦成績で豊島先生が圧倒していることは、様々なところで取り上げられています。終盤で追い込まれてから大逆転といった将棋もありました。藤井先生が終盤で逆転するところは多く目にしますが、その逆ができる人がいるとは……。