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綾崎 もう、奨励会に入れるところまで待ってというか。

佐藤 力をつけて、奨励会受験で受かるしかないっていう感じで考えてましたね。

綾崎 奨励会に入ってからもプロになってからも、ここで絶対に負けるわけにはいかないという戦いがもう何度も何度もあると思うんですけど、それがまず最初に小学生のときに来るわけじゃないですか。僕は自分を振り返ったときに、一番最初の絶対に失敗できないものって何だったかなって考えると高校受験ぐらいなんですけど、天彦さんの場合はそれが小学生のときの奨励会受験で。しかも2回受験されてるんですね。

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佐藤 はい。小学校4年生のときに奨励会受験をして1度失敗して、2度目に受けた小学校5年生のときに受かりました。

将棋の世界で上位に駆け上がるには

綾崎 そこで心を持ち直すのって大変じゃないですか? やっぱり1年に1回しかチャンスがないっていうのもあると思うんですよ。

佐藤 小4で落ちたときはやっぱりショックでしたね。ただ小5の2回目の受験のときは、小4から小5の1年間で力がついたという実感もありましたから、あまり小4で落ちたことを引きずらずに前向きな気持ちで受験できたかなと思います。

綾崎 一発で奨励会に入れる方のほうが少ないんですか?

佐藤 どうなんですかね? ただ、一発で受かったひとのほうがそのまま上位に駆け上がるということは多いといえば多いと思います。

 というのは、将棋の世界は、小学生ぐらいのときの実力でそのまま上に上がっていく場合が多いんです。だから、小学生のときにあまり強いと目されなかったり、結果が出せないひとは、奨励会に入ったあとやプロになったあともそういうポジションに留まり続けるみたいなこともあります。

  

福岡から関西奨励会に通う

綾崎 奨励会入会後は、月に2回の「例会」に参加しなければなりません。遠方だと大変ですよね。自分だったら東京や大阪に住んでる子たちずるいな、とか思っちゃいそうなんですけど、そういう気持ちはありませんでしたか?

佐藤 ひとと比べるということはあまりしなかったです。感情的にそう思えるかどうかはともかく、理念的な立て付けとして、どこに生まれるかというのは自分では選択できないわけですよね。

 ですのでこれは奨励会の地理的な問題だけではなく、自分のなかで一般化された考えなんですけど、東京や大阪に生まれたひとのほうが有利なのは間違いないけれど、だからといって東京に生まれたひとはずるいみたいなことを思うのもどうかと。彼らは彼らで、別に東京に生まれることを選んでるわけじゃないので。地方に生まれた人間にずるいずるいと言われても、彼らは反論しようがないですよね。

 自分が彼らの立場になって考えると、自分は別に東京に生まれたことを選んだわけじゃないのにひたすら地方出身者に妬まれるみたいなことになって、それはそれで理不尽だなと。だから、自分の心に「ずるい」みたいな気持ちが湧き上がってきたときは、そういう理論上のことを考えて相対化すれば、気持ちを抑えられると思います。