関西奨励会の教育的側面
綾崎 天彦さんはずっと遠方から通われていましたが、奨励会時代から仲の良い方っていました?
佐藤 いました。僕は通いだったので彼らと話せるのは奨励会のときぐらいでしたけれど。当時の関西将棋会館は、4階で奨励会をやっていたんですが、踊り場にソファが置いてある少し広いスペースがあったんです。対局と対局の合間の休憩時間とかに、そこで奨励会員同士でサッカーみたいなことをやってました。
綾崎 (笑)。怒られないんですか?
佐藤 いや、怒られましたね(笑)。でもたのしい思い出です。
綾崎 関西のほうがわりといろんなことを緩くたのしんだりしているイメージがあります。
佐藤 いや、奨励会に関しては、いまのイメージで言うと関西のほうが結構きっちりしてますね。
関西の奨励会員って、入った瞬間からお茶出しをさせられるんですよ。当番というのがあって、当番に当たると、朝早く来て、盤駒も出して磨いたりして準備しておかないといけないんです。で、幹事の先生が奥に鎮座ましましているわけですが、幹事の先生が朝来て点呼をするときにお茶出しをしなければいけないんです。玄米茶みたいなものなんですけれど、自分で急須で淹れないといけなくて。小学校5年生ぐらいのうちからそういうお茶出しをするんですけれど、やっぱりその年齢で自分でお茶を淹れることはあまりないですから、なかにはやたら濃く淹れるひともいたりして。そういう教育的側面みたいなのは関西のほうがあるイメージですね。でもすごく家庭的な部分もあります。
奨励会を辞めたひととの友情は続く?
綾崎 アットホームでなんかファミリー感がありますよね。そこで仲良くなった方たちと、そのままいまもプロとして戦っている場合もあると思うんですけど、すごく仲良くなって親友のような関係になったとしても、自分はプロになったけれどもう片方はなれなかったということもあると思うんですね。そういう場合、友情って続きますか?
佐藤 僕の場合は将棋界以外のところに友達ってあまりいなくて。奨励会を辞めたひとでもなんらかの形で将棋界に関わっているひととはつながれています。やっぱりプロになれなかった側のひとがどう感じるかみたいなところが大きい気がするんですよね。もう一度将棋界に関われるかどうかみたいな。
奨励会にいるころは、ある種の将棋界のヒエラルキーのなかにいるわけです。相手のほうが級や段が上だったら相応にリスペクトするし。でも、一回奨励会を離れたら、もうそこの世界観の外に出ているので、やっぱり対等に見ないといけません。そこで将棋界のヒエラルキーというか世界観を引きずっちゃうと、プロになった側が偉くなって出世してて、なれなかった側はそうじゃないみたいな価値観になってしまうと思う。そうじゃなくて、奨励会を抜けたらもう別の世界なんだということを、とくにプロの側はわかってないといけないのかなと。