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目利き書店員が太鼓判 第12回「本屋が選ぶ時代小説大賞」を発表!

2023/01/17

source : 提携メディア

genre : エンタメ, 読書

note

 読み進めるのも楽しくて、素晴らしい作品でしたが、ただ、どこかで谷津さんの他の作品と比べてしまった部分があります。それはたくさん活躍されているからでもあるのですが……。

 礒部 蝦夷地の説明が多い点がやや気になってしまいました。もっと物語に入り込みたかったですね。

 吉野 「鬼の副長」というイメージの強い土方ですが、一人の人間としての描き方が本当に面白くて、夢中で読み進めました。でも、読後感がとてもさわやかで良いものである分、インパクトが弱くなってしまった気もします。

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 平井 土方に関する先行作が多いこともあって、新鮮さという点では苦しいですよね。ただ先行作による予備知識があるからこそ、わかりやすいとも思いました。同じテーマの小説と比べて読みやすい作品だと感じましたし、土方以外の部分もとても面白かったです。

『幸村を討て』今村翔吾

 

 ――池波正太郎の名作『真田太平記』(新潮文庫)の大ファンであると公言されている今村翔吾さんが、満を持して真田父子を描きました。

 礒部 今回の候補作の中では、ダントツで『幸村を討て』を推します。もともと私自身、『真田太平記』が大好きだということもあって、設定が盛り込まれていたりするので思わずのめり込んでしまいました。描き方やストーリー展開に、少し「あれ?」と思う部分もあるにはあるのですが、時代小説の読者層を広げてくれるようなパワーを感じます。『真田太平記』を読んだことがない方にも、興味を持ってもらえるのではないでしょうか。

 何より、登場する武将一人ひとりのキャラクターが立っていますよね。若い読者に届けるという点で、「本屋が選ぶ時代小説大賞」にぴったりだと思いました。時代小説の入り口となる本として、今村さんの作品は「ちょっと読んでみて」とおすすめしやすいですよね。魅力的な登場人物を通して、歴史への興味を広げていってくれる可能性を秘めた一冊です。

 平井 実は私自身、時代小説に苦手意識があったのですが、この小説に登場する武将たちは深掘りしたくなりました。真田兄弟の描き方や、作中に何度も出てくる「幸村を討て」というセリフも、格好よかったですね。

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