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 時代小説を読んでいない方にはミステリーの面白さが先行するかもしれませんが、よく読んでいる方には玄人ウケする歴史の楽しさがありますね。

 阿久津 谷津さん同様、木下さんは読む前からハードルが上がってしまう作家さんでした。だからこそ作品が面白くても、木下さんならこれくらい当たり前と受け止めてしまった部分があります。同じ木下さんの作品で、武蔵をほかの人物たちの視点から浮き上がらせる書き方を採用した『敵の名は、宮本武蔵』(角川文庫)と比較しても、心理描写が少ないように感じました。物語の展開もうまくいきすぎて、少し武蔵の輪郭がぼやけてしまった印象です。

 礒部 新しいものを読んだなという感覚がありましたね。とても面白かった一方で、これは漫画のような読後感かも……と。これは完全に好みの問題ですが、歴史時代小説の良さをもう少し味わいたかった気もします。

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 平井 私は何よりも、怪奇や伝奇が大好きなので、まず「五霊鬼の呪い」や妖刀村正という時点でやられてしまいますね(笑)。加えて戦の描写が圧巻です。鼻を削ぐシーンとか、あまりにおどろおどろしくて。いつもならエンターテインメントとして距離を置きつつ読むのですが、怖すぎて、夢にまで見て眠れなくなってしまったくらいです。小説内の場面をまざまざと想像できる、書き方の凄みというものを一番強く感じた作品で、とてつもないインパクトでした。

 木下さんが「読者を驚かせよう」と仕込んだであろうポイントで毎回びっくりして、本当にのめり込みながら読みました。

全員の満場一致で決まった2022年の一冊は!?

 ――議論は尽きず、長時間にわたって熱いご意見を伺ってまいりました。各作品の面白さがそれぞれに異なっていて、皆さん大変悩まれた印象です。

 議論に議論を重ねた最終的な投票の末、大賞は木下昌輝さん『孤剣の涯て』となりました。結果として、全員一致の満票でした。予想を超える熱戦となりましたが、誠にありがとうございました。