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『はぐれ鴉』赤神諒

 

 ――赤神諒さんは、今回初のノミネートです。江戸時代前期に豊後国・竹田藩で起こった凄惨な事件に対する復讐劇を描きつつ、ミステリーあり、恋愛ありと、ドラマチックな物語です。

 礒部 私はすごく好きな作品でした。読みながら何度も涙を流しましたね。「人は信じたい神を信じりゃいい」という作中のセリフは、私自身が考えていることとも重なるように感じて、メッセージが素敵でいいなと思いました。

 阿久津 謎解き要素も楽しめて、やはりミステリー好きとしては食いついてしまう作品でした。あと、真相を知って再読すると、冒頭から印象がガラッと変わるんですよね。「もう一回読むとさらに楽しめるよ」というすすめ方ができる作品です。加えて「起こった出来事の裏には、ほかの人の色々な思いがある」という現代的なテーマも伝えていて、今の人に読んでもらいたい一作だと思いました。

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 平井 私としては、竹田藩が隠れキリシタンの里のようになっていた史実を知らなかったので、藩に関する記述をとても興味深く読みました。

 市川 竹田藩の名物、名菓、名所が随所に織り込まれていて、町を知ってもらおうという意図がありそうです。

 平井 少し気になったのが、恋愛の場面ですね。すごく素敵な展開があっても、なぜか面白さがそこで失速してしまう感覚を覚えてしまったんですけど……。

 市川 仇の娘である英里との恋路と復讐と、どちらを取るかを主人公の才次郎が逐一天秤にかけて悩む。揺れ動く心情が非常に丁寧に描かれている分、恋愛要素をそんなに好まない人は少し気持ちが離れてしまうかも? と思いました。

 物語自体はミステリー仕立てで面白かったです。城代である玉田巧佐衛門というおじいさんがとても魅力的で、彼への興味だけでも読ませてくれる見事な人物造形でしたね。最後の最後にもう一回転する構成も大変楽しくて、面白く読み終えました。

 吉野 一族郎党が皆殺しされる凄惨な事件がなぜ起きたのか、という謎は最後まで全く読めず、引き付けられながら読みました。ただ、藩ぐるみの大きな謎や恋愛の行方は見通せてしまった部分でもありました。