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『孤剣の涯て』木下昌輝

 

 ――本作では、宮本武蔵や、宇喜多家にかつて仕えた坂崎直盛など、木下さんがこれまで書いてきた歴史上の人物がそろい踏みしています。

 市川 「徳川家康を呪った犯人はいったい誰なのか」という物語の推進力となる謎解きも面白いですし、やっぱり木下さんの筆によるアクションも素晴らしい。坂崎直盛が奇声を上げながら剣を振るうシーンを「赤子を失った母の絶叫を思わせる」と書くセンスも抜群に良くて、感動します。『魔界転生』の雰囲気で深作欣二に撮ってもらったらかっこいいかなとか、タランティーノもいいかな……と想像が広がります。シャープでポップなB級感があって。

 一同 (笑)

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 市川 いや、やっぱり「B級感」という言い方には語弊があるかな(笑)。山田風太郎のような昔の伝奇小説を思わせながら、それでいて現代的なセンスが光っているところが、大好きです。

 最近、ゲームの影響で、知名度の低い武将を知っている若い方が増えていますよね。戦国時代への造詣をゲームから深めていった方に、どうしたら時代小説へと足を踏み入れてもらえるか、と考えるのはとても大事なことだと思うんです。そういう意味でも、万人が「すごく面白いエンタメだ」と思えるこの一冊は、「本屋が選ぶ時代小説大賞」にふさわしいように感じました。「ちょっとこれはやりすぎかな」とか、こちらが勝手にブレーキをかける必要はないような気がしています。

 吉野 読んでまず感じたのが、山田風太郎賞にノミネートされていたら、或いはこの作品が取ったんじゃないかということです(選考会の一週間前に受賞作が小川哲さん『地図と拳』に決定)。登場人物も、これまでの木下作品のオールスターキャストで、集大成なのかなとも感じさせられました。

 物語の展開ひとつひとつに、「そう持ってきたか」、「ああ、あなただったのか」といった風に、腹落ちがあります。史実と照らし合わせてみると、「ものすごい書き方をしているな」とわかるんです。例えば、本当に宮本武蔵の養子になった三木之助や坂崎直盛の最期など、木下さんにしかできない歴史の描き方が随所に見られて、「らしさ全開」だと思いました。