1ページ目から読む
2/4ページ目

 それを聞いて父親を見ると、沢に足を浸けた状態で苦しそうに横たわっており、初めて異変に気がついた。近づいて「どうした?」と声を掛けると、しんどそうに起き上がって、ほとんど言葉になっていないような弱々しい声で「ハチに刺された」と言った。

 それでも「1匹や2匹のハチに刺された程度だったら大丈夫だろう」と、あまり深刻には考えなかった。しかし、すぐにまた横になってしまい、とても苦しそうな状態から徐々に反応がなくなっていくのを見て、ようやく「これは大変なことが起こっているのかもしれない」と思いはじめた。

 父の友人の話によると、安田が沢に下りた直後の午後1時50分ごろ、斜面を下っていた父親は、たまたま土の中にあったハチの巣を踏んづけてしまったらしい。2人の友人が追いついたときには、数え切れないほどのハチが父親に群がっていた。2人はすぐにハチを追い払おうとしたが、その際にひとりも手を1箇所刺されたという。父親は顔や腕などを数十箇所刺され、その場にうずくまってしまったが、再び立ち上がると自力で沢まで下りてきたのだった。

ADVERTISEMENT

 しばらくすれば回復するかもしれないという希望的観測に反し、父親は横になって目を閉じたまま、動かなくなっていく。ハチに刺されてからすでに10~15分が経っていた。

救急隊員の指示に従って心肺蘇生を開始

「お父さんは去年もハチに刺されているから、危ない状態かもしれない。すぐに119番通報したほうがいい」

 友人のその言葉にようやく決心がつき、安田は携帯電話で救助要請をした。

 父親の意識はすでになく、救急隊員の指示に従い、3人で交代しながら心臓マッサージを行なった。心肺蘇生を続けることおよそ1時間、現場に防災ヘリが到着し、父親をピックアップして出会いの丘駐車場の脇にあるヘリポートへと搬送した。そこでドクターヘリに引き継がれ、医師の処置を受けながら秩父市内へ運ばれ、さらに救急車で病院に搬送されていった。