1ページ目から読む
4/8ページ目

母親の呪縛

 祖母や母親から、「男の人に家事をさせるな」と言われて育ったせいだろうか。金山さんは、夫が掃除をしてくれるだけで嫌な気持ちになった。また、夫は若くして母親をがんで亡くしているため、年に何度か義父1人で家に遊びに来ることがあり、その際、義父が浴室や車の中などを簡単に片付けてくれることがあったが、金山さんはそれも嫌でたまらなかった。

「母が片付けや掃除ができず、祖母や父に悪口を言われているのを見てきたので、片付けが下手な私を見かねた夫や義父が、仕方なくやっているのだと思ってしまうのです。夫からは、義父は少しでも私や孫たちが楽になるために、『やりたいと思ってやる人だから、気にしないで』と言われますが、私のトラウマは深いみたいです」

 子どもが生まれてから金山さんは、泣き声やわがまま、抱きつきなどにも、ずっと拒否反応が出ていた。長女がイヤイヤ期を迎えた頃、言うことを聞かない長女に対し、無理やり押さえつけて言うことを聞かせていると、夫から「それじゃダメでしょ?」と言われ、カチンと来た。「でも私はそうやって育てられてきたの!」と言い張り、口論になる。

ADVERTISEMENT

「夫は子どもたちに軽口を叩かれても、怒らずに笑っていました。私が、『なんで怒らないの?』と聞くと、『そこはそんなに重要じゃない』と言われましたが、うちの両親だったら絶対に怒ったはずです。手が出ることはめったにありませんでしたが、怒鳴られるのは当たり前で、ひどいときはげんこつを食らうこともありました」

 次第に金山さんは、子どもたちとの関わり方に悩み始める。「夫と子どもたちが関わるときは、子どもたちが泣くことはないのに、自分が関わると子どもたちを泣かせてしまう」「なんで私はこんなに上手くできないんだろう?」と自分を責める。それを見かねた夫は、「君が子どもたちを甘えさせられないなら、自分が代わりに甘えさせてやるから大丈夫」と言ってくれた。逆に叱るべき場面でも、金山さんだと怒りすぎたり、冷静に叱れないことが多かったため、夫がいるときは交代してもらうようにした。

©AFLO

関節リウマチと橋本病

 90代になっていた祖母は、2011年5月に心臓発作を起こして入院し、手術を受けていた。1ヶ月ほどで退院した祖母は、金山さんの母親が在宅介護をすることになる。

 金山さんの実家がある地域は、古くから住民同士のつながりが濃く、祖母が退院して家に戻ってきたという情報は、瞬く間に近所に知れ渡った。金山さんの祖母と母親が犬猿の仲だということを知っていた近所の人たちは、母親が祖母の介護をしっかりやっているか、入れ代わり立ち代わり見に来るようになる。