消えない不安
金山さんが准看護学校の2年生になる年、大学受験に失敗した弟の予備校通いのため、一緒にアパートを借りて2人で暮らし始めた。どちらも実家から通うには厳しい距離だったからだ。
その年の秋。硬いものを食べて口が開かなくなった金山さんは、近所の内科から紹介されて、大学病院の口腔外科を受診。顎関節症と診断され、「寝てる間、音がしないレベルの歯ぎしりをかなりしている」と言われる。
「医師は、『歯ぎしりは脳のブラックボックスだ』と話しており、当時から“顎関節症は心身症である”と定義されています。今考えると、これも溜まりに溜まったストレスのせいだったのではないかと思っています」
1年後に弟は国立大学に合格し、県外に出た。金山さんは准看護学校を卒業後、高等看護学校に進学し、学校の近くで1人暮らしを開始。その後、就職先が実家に近かったため実家に戻り、実家で3年間暮らしてから、4年目以降は寮に入った。
やがて金山さんが27歳のとき、職場の友人から、ひとつ年下のメーカー勤務の男性を紹介される。
1ヶ月後には交際に発展し、1年半後に同棲の話が出ると、金山さんは、「父が同棲なんて許すはずがない」と思い、「同棲するなら籍を入れてからでないと無理」と男性に決断を迫ったところ、結婚することになった。
30歳で長女を出産し、育休後、復帰を急かされていた金山さんは、勤務先の病院から「復帰後は夜勤もしてほしい」と言われて悩んでいたところ、2人目の妊娠がわかったため、退職する。
夫は家事にも育児にも協力的で、金山さんが体調不良や疲労で動けないときはもちろん、そうでないときでも、子どもの保育園のお迎えから夕食の支度、入浴や寝かしつけまで、全部1人でこなしてくれることもあった。
次女出産の2年後、34歳で長男を出産。理解のある夫と3人の子どもに恵まれ、傍目から見ても幸せなはずの金山さんだったが、それは彼女にとって、薄氷の上を歩くような日々だった。
「長男を産んだあと辺りから、母から暗に、『あんただけ幸せになることは許さない』と言う圧が感じられて、『幸せになってはいけない』といつも心の深いところで思い込んでいました。幸せが怖かったです」
結婚して実家を離れても、金山さんは、「いつかダメな自分を夫は見放すのではないか」「母のいない、今の夫と子どもたちとの幸せな生活がなくなってしまうのではないか」という不安に苛まれ続けていたのだ。