飛田新地の料亭には「ホームページがない」。客向けの「電話もない」。なので、基本的に「指名と予約がない」。その場に行かなければ、そのときにどんな女の子と遊べるかわからない。だから、街に人が集まる。通り沿いにズラリと並ぶかわいい女の子を覗き込みながら街のなかをグルグルと歩き回る。ひっそり目に歓喜の色を浮かべつつ、真剣に今宵の相手を選んでいる。
さらに「待合室がない」。なので、客は遊び相手が決まるまで、ずっと店の外にいることになる。常に街のなかに姿を見せている。遊んだあとも「送迎がない」ので、店から歩いて帰る。新地内にあるたこ焼き店の屋台は遊んだあとの待ち合わせ場所となることが多く、繁忙期になると男たちの姿であふれる。公衆トイレには行列ができている。
飛田新地には「賑わい」がある。これは平成時代に色街から失われた最たるものである。いまも残る「多くの人の姿があり、活気と熱気に満ちた色街」、それが飛田新地の独自性である。
年中無休で午前中から始まる客と嬢との「自由恋愛」
大阪には五つの「ちょんの間街」がいまも存在している。かつて遊廓や花街だった場所が、店舗の形態を料亭や旅館に変え、往時の色街風情を残しながら「性風俗の街」として機能している。
飛田新地、松島新地、今里新地(大阪市生野区)、滝井新地、信太山新地(大阪府和泉市)を称して「大阪の五大新地」と呼ぶ。
飛田新地は大阪市西成区山王三丁目の一帯だ。約400m四方の土地に約160軒の料亭がズラリと並ぶ。
料亭の店頭には「兄ちゃん、上がってや」「遊んでいって」「いい子よ」と客を呼び込む「やり手婆」と呼ばれるオバサンがいる。
料亭の玄関の上がり框には電灯の光に照らされた女の子が微笑みながらちょこんと座っている。アイドルやモデル、AV女優のような若い美女から、年を重ねた人妻、熟女まで、さまざまな女性が競って客の誘いを待っている。
料亭で働く女の子は全員が美人というわけではないが、平均レベルはかなり高い。新地内にはいくつかの通りがあり、年齢はその通りによって異なる。
「メイン通り」「青春通り」と呼ばれる最もハイレベルな通りでは、年齢層が比較的若く、20代が中心となる。
「裏通り」と呼ばれる通りは30代が中心。20代もいるが、40代以上の女性もいる。かつては40代以上の女性が大半だったので「妖怪通り」と呼ばれていたが、最近は若い女の子が増え、容姿のレベルも上がってきている。愛嬌があり、接客がよい女性が多いことから、「癒し通り」と呼ばれることもある。